リビア
"狂犬"カダフィ大佐の落日

市政10月号
(全国市長会)  

 地中海沿いの北アフリカの一角を占める石油資源の豊富なリビアに40年間以上も君臨したカダフィ大佐がとうとう、政権の座を追われた。「砂漠の狂犬」の異名を持ち、超大国米国を向こうに回してやりたい放題だったが、今年初めに忽然と起こった「アラブの春」の民衆蜂起に足をすくわれた。
 反カダフィ派は欧米諸国の軍事的な支援をバックに攻勢を掛け、一進一退の激戦を経て、首都トリポリの本丸を陥落させた。だが、カダフィ大佐たちは姿をくらまし、今も徹底抗戦を呼び掛けており、国民評議会を中心に国家再建を目指す反体制派の前途は多難だ。
 民衆蜂起で、これまでにエジプトのムバラク大統領とカダフィ大佐といった2人の大物独裁者が打倒され、次の関心はシリアのアサド政権に向かいつつある。


英仏主導の軍事介入が効果
 反体制派が東部のベンガジを根拠地にして、カダフィ政権打倒ののろしを上げたのは今年2月だった。当初は順調だったが、近代兵器を擁するカダフィ政権は反体制派に空爆で反撃。装備に劣る反体制派は後退を余儀なくされ、市民にも多くの犠牲者が出た。これを見た国連は民間人の保護を口実に介入を決断、米英仏など北大西洋条約機構(NATO)の多国籍軍が安保理の決議に従って、3月中旬からカダフィ政府軍に対する空からの攻撃に踏み切った。
 これが奏功し、反体制派は立ち往生した政府軍を次第に追い詰めて行き、結局は、8月末に、トリポリのカダフィ大佐の要塞化された邸宅を占拠した。挙兵から約半年、これで、長年リビアを独裁支配したカダフィ政権は事実上崩壊した。
 注目すべきは、NATOのリビア攻撃の主役が英仏両軍だったということである。これまでなら、大規模な軍事作戦では、超大国の米国が当然のように主導権を握った。だが、現在、米国はイラク、アフガニスタンの泥沼にはまり込み、財政面でも不安を抱えており、オバマ政権としては支援役に回るのが賢明と踏んだのである。
 英仏には、リビアの石油資源が魅力だし、世界に活躍をアピールする絶好の機会となった。9月1日パリで英仏両国の主催で約60か国が参加して新生リビア支援国際会議が開催されたが、今後、リビア復興に両国が大きな影響力を発揮しそうだ。

強力な新政府は可能か
 反体制派の司令塔である国民評議会のムスタファ・アブドルジャリル議長は本部をベンガジから首都のトリポリに移し、本格的に統治機構の整備に乗り出している。まず、憲法を制定し、一年以内に選挙を実施して、議会を発足させ、政府の樹立というスケジュールだ。
 だれもが懸念しているのは、強力な新政権を樹立できるかどうかである。国民評議会はイスラム過激派、世俗派、カダフィ政権の元高官、海外亡命組などの寄せ集めの集団だ。カダフィ憎しだけでまとまっているに過ぎず、ポスト・カダフィとなると、理念の違いが表面化しかねないという。
 国家再建には、国民の融和を基礎に強力な政府の樹立と治安の回復が不可欠である。アフガニスタンやイラクでの戦後処理の難しさが思い出されるからだ。特に、リビアでは部族間の軋轢や、西部と東部出身者の対立が激しく、国民融和が難題だ。他方、潜伏中のカダフィ大佐の捕縛も、国民の恐怖感をぬぐい去ると共に、政権の安定のためにも反体制派にとっては重要な課題だ。

新指導者には誰が
 新しい政権のトップとしては、国民評議会のアブドルジャリル議長が最有力とされる。今年2月に反体制派に寝返るまでカダフィ政権の法相を務めており、同大佐にも臆せず物が言えた唯一の人物だという。
 実務を担当する首相には、反体制派の首相ポストを占めるマフムード・ジブリール氏の呼び声が高い。やはり2月までカダフィ政権の国家経済開発評議会の議長を務めていた人物で、有能なテクノクラートとされる。
 カダフィ政権が40年以上も続いただけに、リビアの将来を担うと見られる有力候補者の多くが、旧政権とつながる過去を持つ。反体制勢力側が彼らに寛容な姿勢で臨むかどうかが、リビアの将来を左右するカギとなりそうだ。
 これに関連して言えば、トリポリ陥落直前に起こった、反体制派の最高司令官の暗殺事件が気に掛る。前線で作戦中に、国民評議会から尋問のためベンガジに呼び戻される途中で生じたこの事件の真相は藪の中だ。同将軍もカダフィ政権の元内相で、反体制派の弾圧に手を染め、同派内部では憎悪の的だったというから、複雑だ。

次はアサド政権?
 カダフィ政権の崩壊で、次の関心はシリアのバッシャール・アサド政権に集まりつつある。アサド大統領一家は事実上権力を世襲し、これまで約40年間にわたりシリアを支配してきた。これに反体制派が蜂起し、首都など各地で激しい攻勢を掛けている。アサド政権は武力でデモを弾圧し、生き残りに懸命だが、「アラブの春」がデモ隊を鼓舞する格好になっている。 
 主要欧米諸国はアサド政権に辞任圧力などを強化している。また、アラブ穏健派諸国やトルコなども批判的になっており、アサド政権は窮地に立つ。
 シリアは「アラブの大義」を旗印に反イスラエルで域内の政治・軍事情勢に深く関与しており、アサド政権が崩壊するような事態となれば、この地域にさらに測り知れない影響を及ぼすことになりそうだ。(9月2日)


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