反日デモを操る中国政府の不安

2012
市政11月号
(全国市長会)
 

沖縄県石垣市に属する尖閣諸島の日本政府による国有化に反発した中国で9月、反日デモが全国的に拡大・激化し、日本大使館始め、進出している日本企業が襲撃され、深刻な被害が出た。これらのデモは中国政府が背後で扇動した面が強く、満州事変の引き金になった柳条湖事件(1937年)から81年目の18日を頂点に、デモの暴徒化を懸念した政府が抑え込みに転換、収束に向かった。
だが、尖閣諸島周辺の海域では、中国の艦船10隻以上が一時、日本の領海や接続水域に入り込んで、日本の海上保安庁の巡視船とにらみ合いが続く。中国の漁船団約1千隻が尖閣海域に向かったとの報道もあった。また、台湾の漁船多数と巡視船も尖閣諸島付近に来て、日本の領海を侵犯、中台「連携」を誇示した。対日経済制裁の実施の話もあり、日中国交40周年記念式典も事実上中止となり、「チャイナ・リスク」が改めて強く意識され始めている。


大国らしからぬ大衆扇動
世界の第2の経済大国にのし上がり、国連の安保理常任理事国でもあることから、責任ある国際社会の一員として模範となることを期待されている中国だが、残念ながら、その評価は低い。
今回の領有権紛争でも、日本側では、中国人・企業への襲撃はもちろんのこと、嫌がらせもほとんど起きていない。民度が全く違うのだ。これと対照的に、中国側はなんと政府が先頭に立って、日本側へのありとあらゆる威圧的な行動を民間に呼び掛けている。国民すべてを命令通りに動かそうという独裁政治の悪弊が政府に染みついているのだ。

全土に拡大した激しい反日デモも、市民が自然発生的に立ち上がったというよりもむしろ、政府が煽った、いわば、「官制デモ」なのである。しかも、日本の一部報道によると、尖閣に出掛けた漁船にも10万元(約125万円)の補助金が支給されているというのだ。
伝統的に、共産党にとっては、大衆動員によるデモは政治闘争の重要な武器である。共産党独裁の中国は今でも対外的な圧力行使にこの武器を最大限に利用している。

不満を反日に向け、ガス抜き
若者たちを反日に駆り立てる推進役となっているのが、「愛国無罪」というスローガンである。違法な行動でも、愛国的であれば、罪は問われないという趣旨だ。1930年代の民族主義的なスローガンである。それをさらに助長したのが1990年代の江沢民前総書記時代に強化された反日の歴史教育である。小泉政権時代の2005年春、靖国神社参拝をめぐって、反日デモが起こった時にも、これが免罪符となった。

政府はこのような背景を利用し、不満を抱く国民に反日デモへの参加をけしかけたのだ。いつもの手口だ。だが、全人口の僅かに6%の一握りの党員たちが甘い汁を吸っているのに、国民の大多数は貧しい生活を余儀なくされている。このような不公平さは国民の間では周知の事実だ。だから、デモが過激化すると、その不満が反日から反党・反政府に向かいかねない。

そこで、政府は不満のガス抜きが十分できたと見ると、取締りに乗り出す。この間の微妙な手綱さばきが難しい。デモ隊の間に毛沢東主席の肖像画や共産党独裁批判のプラカードが揺れ動いている光景に、解任された重慶市党委員会の薄煕来書記支持の保守派(左派)分子がデモに紛れ込んでいることが分かる。だから、略奪行為などで暴徒化する姿を見るや、逆に、打ち止めへと舵を切ったのだ。

トップ交替期の権力闘争も響く
今年は、特別の政治の年である。秋には中国共産党の最高指導者の交替人事を決める全国代表大会の開催(やっと11月8日に決定)を控えている。ここでは、その他指導部の人事も予定されており、上層部で激しい権力闘争が繰り広げられている。

既定路線では、2期10年の任期を終える胡錦涛総書記の後任に習近平国家副主席(中央政治局常務委員)が就任することになっている。だが、今春、毛沢東主義を掲げて、政治局常務委入りを目指していた薄煕来書記(中央政治局員)事件が表面化し、同書記が妻による英国人ビジネスマンの殺害事件との関与などが疑われ、解任(その後、刑事訴追が決まった)された。これ以来、中央政治局内の胡錦涛派と江沢民前総書記グループなどとの権力闘争が激化。薄前書記と同じく太子党に属する習近平氏の去就が注目されていた。

その間に外部に漏れてきたのは、薄・前書記の巨額の外国送金や長男の派手な留学(英オックスフォード大学を経て、現在、米ハーバード大学院に在学中)だ。習副主席も親族の資産が300億円との報道もあった。
その他の指導者も同じような状況らしい。
これと対照的に、貧しい農村と裕福な都市との経済格差は拡大するばかりで、しかも、大都市には農村からの難民がわんさと流入し、底辺でうごめく。さらに、政治面での民主化の遅れで、言論の弾圧は日常茶飯事だ。社会全体に、格差の拡大と社会の閉塞感が蔓延しており、党と政府は反政府運動に戦々恐々の有様だ。反日デモの操縦で社会・政治不安を乗り切るという中国政府の手法に、国民が騙されていることに気が付き、「待った」を掛けるのはいつのことなのだろうか。(10月2日)


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