ミャンマー民主化
主役2人の関係がカギ
2012
市政8月号
(全国市長会)
 

ミャンマーでは2011年3月にテイン・セイン大統領が就任して軍政から民政への移管が実現して以来、民主化が順調に進むと同時に、中国離れが鮮明になりつつある。今年半ばには、長年にわたり自宅軟禁されていた民主化運動の象徴的な存在であるアウン・サン・スー・チー女史が隣国のタイに続いて、英国など欧州諸国を歴訪し、24年振りの外遊からこのほど、無事帰国した。それまでは、ひとたび外国に出ると、帰国できなかったのだから、大きな変化だ。
ノルウェーのオスロでは、1991年に授与されたノーベル平和賞の受賞記念講演を行った。彼女への歓迎ぶりはどこでも熱狂的で、民主化推進のもう一方の旗頭テイン・セイン大統領の影が薄くなり勝ちだった。それに、彼女の言動が大統領との関係を緊張させたこともあった。民主化の基盤はまだまだもろく、共に現在67歳で、同床異夢的なこの主役2人の関係如何が、民主化の今後のプロセスを左右することになりそうだ。


大統領の神経を逆撫で
外遊中にテイン・セイン大統領の気分を最も害したのは、一番手の5月末のタイ訪問だった。主要な目的は世界経済フォーラムの東アジア会議への出席だったが、隣国とあって、両国間には微妙な政治的、社会的問題も横たわっている。
タイ訪問は当初から波乱含みだった。同会議に元々、大統領も出席する予定だったが、スー・チー女史の参加が分かり延期、その後、延期された予定をも事実上キャンセルしたのだ。

米紙などは大統領顧問の発言として、同女史が自分のタイ訪問の詳細について十分説明しなかったために、大統領が不満を抱いたのだと報じている。
また、各種の報道によると、会議での同女史の発言にも、大統領は不快感を持ったという。同女史は演説の中で、ミャンマーの民主化について「無謀にも楽観的な見解」を抱かないよう警告すると共に、同国への投資に関心を持つ人々に対しては「健全な懐疑」を持ち続けるよう助言したりした。これが大統領や政府の癇に障ったのだ。

この発言は世界に向かって、ミャンマー投資には慎重な姿勢で臨むよう呼び掛けているわけで、これは大統領の期待と真っ向から衝突することになってしまう。大統領が民主化に乗り出し、スー・チー女史の政治活動を認めたのは、軍政下で沈滞したミャンマー経済の活性化を図ることに最大の狙いがあった。中国や北朝鮮などの一部の国々だけに頼るのは止めて、西側諸国との関係を正常化して、経済制裁を緩和ないし解除させて、諸外国から投資を呼び込みたいと目論んだのである。

喉から手が出るほど西側諸国からの投資が欲しいと思っているのに、「広告塔」として利用しようとしているスー・チー女史の口から、こんな警告や助言が国際会議の席上飛び出しては、せっかくの努力も水の泡になってしまいかねない。
しかも、同女史が突然、タイ政府に許可を申請して、ミャンマーとの国境沿いの難民キャンプを訪れたことに、ミャンマー政府は特に当惑したようだ。この難民キャンプには、何十年にもわたってミャンマー政府と戦闘を繰り返している少数民族が難民として受け入れられているのだから、大統領の気持ちも分かる。

軍部の許容度は?
現在のところ、両者の関係が後戻りできないほど悪化した兆候はない。大統領側はスー・チー女史との意思疎通を十分図りたいとの希望を表明する程度に止まっているようだし、同女史も大統領の民主化に対する「真剣な」態度に疑念を抱くようになったとも思えない。

テイン・セイン大統領の民主化政策によって、日本や欧米諸国は制裁措置の撤廃或いは緩和に踏み切り、これらの国々から様々の企業が豊富な天然資源と安い労働力を求めてミャンマーに殺到する有様で、それまでミャンマーを牛耳っていた中国の影が薄くなっている。その意味では、東・南シナ海などでやりたい放題の中国を南方から締め付ける安保戦略上の効果もある。

だが、この民主化路線の行方には不安もある。テイン・セイン大統領を抜擢したのは、長期軍事独裁政権のトップだったタン・シュエ上級大将だが、昨年3月に引退した後も隠然たる影響力を維持しているとされる。大統領は元々、このタン・シュエ大将にずっと忠勤を励んできた軍人であり、大統領に就任以来、民主化に乗り出したことに驚きを表明する向きが多い。問題は、「院政」を敷くタン・シュエ大将が、どの程度まで民主化路線を許容するのかということになる。

大統領は軍上層部の中では、穏健派で、汚職に染まらず、野心やカリスマ性のない誠実さが取り柄の人物と言われる。後継者に選ばれたのも、タン・シュエ大将が引退後の身の安全を最優先させた結果だとの噂もある。
当然ながら、軍部は既得権益の維持に腐心するはずである。だから、外国からの投資が足踏みし、軍部の権益が損なわれるようであれば、いつでも民主化に待ったをかける可能性がある。
しかも、大統領は心臓病でペースメーカーをはめ込んでおり、つい最近も心臓発作で入院、健康に問題がある。2015年の大統領選挙に出馬する意向もないという。また、スー・チー女史も最近倒れたことがあり、健康が万全とは言い難い。

ミャンマーで民主化がいつ完全に定着するか、同女史らが要求する憲法改正問題などもあり、道は平坦ではなく、今後も紆余曲折が予想されそうだ。(7月3日)


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