人的資源の算定

−人材・能力のバランスシートとキャリア再設計の指針−

 人事マネジメント9月号 ア−バンプロデュ−ス社


書  評

  好むと好まざるとにかかわらず「人材の流動化」の動きは止まらない。しかし、どういう事情であれ、そこには本来、合理的な基準が求められよう。
 企業は「どういう能力を保有、発揮し、何ができて、いくらの人材」というスペックを明らかにすべきであり、一方、個人は「いくら稼ぐ必要があり、そのためにはどんな能力を磨く必要があるのか」ということについて根拠のある見通しを持つことが大事だ。
 これらの合意、共有化の上にはじめて「安定した人間関係」、「ぞんぶんな能力発揮」、そして「合理的な人材流動」も可能になってくるものと思われる。
 本文に紹介する「人的資産のバランスシート」は、単に人材の「時価」を算出するにとどまらず、あえて5年後を視野に入れることで、今後のキャリア設計を明確に示すことができるようになっている。「バランスシート」の考え方を用いて人事考課の新しい切り口を開拓した、画期的な手法として注目しておきたい。(人事マネジメント・編集部)



もくじ

1人材流動化時代の企業と従業員の関係
 (1) 企業への不信感が増大している
 (2) 流動化時代の新たな関係を探る
 (3) 今こそ、不可欠なのは「連帯感」だ
              
2人材能力要件ガイドラインの共有化
 (1) 曖昧にしてきた人的能力要件
 (2) 能力要件のデスクロージャーを

3先ず、個人の生活設計から
 (1) 4つの路線からの選択
 (2) 経済面での生活設計が出発点

4会社はどんな人材に、どれだけ給料を支払うのか
 (1) 4つの流動人的資産
 (2) もう一つの固定人的資産

5人的資産の自己査定
 (1) 流動人的資産
 (2) 固定人的資産

6人的資産バランスシートを作成する
 (1) 資産の部
 (2) 負債の部
 (3) 資本の部

7バランスシートからキャリア課題を導く
 (1) 生活設計にみあった「人的資産」があるか
 (2) キャリア開発課題の設定
    −求められるのは問題解決力−
 (3) 自己責任で実行マスタープランをつくる

8企業と個人の間にガイドラインを       
 


要旨

   過剰労働力の削減が進む中で、「もはや個人が組織に依存し、組織に適応していく時代ではなく、個人が業務や能力を通して組織と対等に関わり合っていく時代だ」と言われるようになってきている。労働力の流動化時代を迎え、さらに一層の競争力強化に向けて、企業と個人は新たな関係構築の問題に直面している。

 この小論では労働力の流動化の問題が不況時代の後始末的なものでなく、産業界全体の競争力強化につながる健全なものでなければならないという視点に立っている。
 
  そのためには、第一に企業と個人がキャリア開発に向けて「共通のガイドライン」を持つことによって、課題解決に向けて「連帯感」を強化して行かなければならない。
  第二には、個人は自分が持っている給料を稼ぎ出す「人的資産」と、自らの「経済的な面での生活設計」を対応させ、キャリア開発の内容とレベルを定量的に捉え、自らの責任とコストで自律的に挑戦して行かなければならない。

 なお、キャリア開発に向けての「ガイドライン」は、本来的に多様なもので各企業が独自に明確化していくものである。しかし、今日の経済環境の変化の状況をよく理解し、主体的に真面目に取り組んでいくならば、自ずとグロ−バルスタンダードとしての競争力強化につながる「ガイドライン」ができ上がって、その結果全体としても健全な労働力の流動化が進むようになる。         
 
 各企業の経営や人事部門にあっては、トータル労働力の適性化の問題はセリアスで緊急度の高い、頭の痛い問題だと思う。社員一人一人を公平にアセスメントし、適材適所の再配置に始まって、時にはリストラやアウトソーシングにまで踏み込まざるを得ない状況にある。
 しかし、当面の近視眼的な収益にこだわるあまり、経営と従業員一人一人の連帯感の問題をおざなりにすれば、将来禍根を残すことになりかねない。
  ここに紹介した「ガイドラインと人的資産のバランスシートづくり」に基づいた「キャリア再開発マスタープランづくり」が、契約制の導入等も含めて、トータルの労働力適性化の問題解決に向けての理論面での武装と実際的な展開に、少しでもお役にたてば幸いである。 


  世の中は労働力のリストラ、流動化の時代を迎えました。この度、「人的資産の算定ー人材・能力のバランスシートとキャリア再設計の指針−」というタイトルの小論を 「月刊人事マネジメント9月号」(アーバンプロデユース社)に発表しました。
     
 問題解決力のある「M−5型組織」をつくる前提となる「人材をどうみるか」という問題を取り上げました。ご一読戴き、ご意見を戴けますようご案内申し上げます。    (井上)  


三菱キャタピラー(SCMシステムサービス
新野さんから

 おはようございます。何時もお気に掛けて頂きありがとうございます。
弊親会社の新キャタピラー三菱が定期購読しているので遅れ馳せですが拝読致しました。
 
 B/Sに自己の資産価値を、現在値と5年後の有り高で展開して実行して行く事は、今の見えない時代のホワイトカラーにとって日々確信を持って生きる凄い手法と目から鱗が何枚も落ちた気持ちです。弊企画推進室の面々にもコピーを配布して勉強させています。
 丁度「ナレッジワーカーの生産性向上ーナレッジ・マネジメント実践の現場よりー」と言う講演をプライスウォーターハウスコンサルタント社シニア・ディレクターの森睦さんから聴いた直後だったので更に印象深く読みました。
 
  この講演、弊社とも多少係わりある会社でもあり、完全ペーパーレス、デスクレスを達成し30歳位で5000万円もの年収、学生の人気上位で急成長を遂げています。社長自らが多画面表示のWAR ROOMで関係者と意思決定して行く迅速経営の標本のような猛烈会社に変身しています。
 
 この講演はソフトベンダーのアシスト社の研究会成果発表会の基調演説として、東京で10/12に行われ、大阪では10/28リーガロイヤルホテルで、名古屋で11/9名古屋ガーデンパレスで同じ講演が行われます。
 この研究会の幹事をしているもので、つい我田引水的なコメントで済みません。情報処理産業の最先端の現場で何が進行しているのか、IT技術の進歩に乗ってホワイトカラーを流動資産ではなくて固定資産として捕らえ「回転率」をあげることで収益を向上する、言い換えれば「ホワイトカラーをこき使う。」(結果的には大選別が進行している)術が経営側のアートとして確立していることを戦慄をもって聴きました。
 大阪・名古屋でご興味あり、時間が取れるようでしたら、詳細情報並びにエントリーの御紹介します。

 同一社会現象の数値化・解法の原論が先生の論文、その絵解きと現場リポートが森睦さんの講演と言う感想を抱いております。10/5−8,10/12−15とTQM幹部研修会に行って缶詰でしたので御礼が遅れて済みません。ありがとうございました。

ベルヒュード研究会(東京)
加藤さんから
 

 「人的資産の算定」をありがというございました。早速、小生も、流動人的資産と固定人的資産、さらに、能力資産の試算を実施してみました。
  長く続いた不況と高齢者の給与を制限する動きの中で、5年先の給与までは読めませんが、現実を当てはめることにより、考え方を理解するのに大変役に立ちました。
 人的試算のバランスシートは、大変面白い表現と思います。もし、小生が30代であれば、直ちに、実行マスタープランまで作成し、実践し、挑戦してみたでしょう。


 ただ4つの能力が、給与とどのように結びついているか、つまり、「自己査定値」とその「ウエイト」がどのレベルにあるかの判定が難しいと思いました。業務内容と職位、その上、企業間でも相当開きが出てくると思われます。本人と会社、上司の忌憚のない話し合いと企業の中で自由に異動できる「連帯感の構築」が前提となりますね。
 
 当面、企業の中で実施するには、貴論文に述べられていますように、社員一人ひとりを公平に評価すことと、その企業の中にどのような能力を必要とするかの標準化とディスクロージャーが課題でしょうか。
 大きな企業は別として、企業や職場によっては、詳細な職務分掌が決まっていないところや決まっていても文書になっていないところも多いのではないかと思います。
  さらに、「企画・提案力」、「指導力」そして、「実行力」は、能力内容は理解できますが、そのレベルの客観的な評価方法が難しいと思います。業務内容と深く結びついてくると思います。

  企業間の流動化を図るためには、各企業に共通的な職務を持つ分野、たとえば、人事部門、総務部門、経理部門などから、標準化をし実践されることでしょう。
 各個人が、共通の業務内容のマスター度合いにより、企業間の異動が公平で容易にできるようにするには、業務内容とその難易度、経験年数などを詳細に分類する必要が出てきます。基本的知識は、各企業毎に研修やOJTで指導訓練していることを文書化し、開示して整理することから始められると思います。

 各企業の文化と習慣の違いに課題がありそう

 大きい企業に長年勤務していると考え方が、大きく偏ってくるといわれます。その企業で使用される特殊な用語が世間一般で通用すると思い込むからです。
 その特殊な用語は、その企業と下請企業の間では、その社員が入社する前から使用されていたために、その社員に取っては、世間で当然のように通用するものと思い込むのです。最近では、その分野の機関紙、雑誌などで一般的な表現方法や用語に統一されつつあるとはいえ、文化や習慣の相違は、このようなシステムを考えるときに一つの壁になりそうです。

  割合早く「人的資産の算定」が必要になってくる

  とはいえ、現実には、一部の銀行や証券会社の社員のように、倒産、合併、事業規模の縮小などにより、リストラによる転職を余儀なくされ、半ば、強制的にその社員の経験した業務内容とその能力を評価することが行われているようです。また、業務の一部がアウトソーシングされたり、派遣社員に置き換えられることによりパソコン能力でWORDやEXCELで評価され始めており、給与が決められつつあります。
 社会の一部には、このような考えの先端が見え始めているような気がします。今回の貴論文は、この意味でも時期を得たものと思います。予測するよりも、割合早く「人的資産の算定」を実践するときが来そうな気がします。
 
 労働省に、「ビジネスキャリアー制度」がある

 業務内容とその標準化に関しては、労働省のビジネスキャリアー制度があります。ビジネスキャリア制度の主旨は、次のようなものです。
 「激動の時代には、ホワイトカラーの専門能力向上が企業の課題です。これまで社会一般に通用するホワイトカラー層の職務の教育基準が確立されておらず、企業毎に教育されていたのが実状です。ホワイトカラー層の職務に必要な専門的知識・能力を段階的に体系的に習得することを支援する教育訓練システムとして制度化されたものです。」
 この制度では、その分野での経験年数と認定教育を修了した後に試験を行い、ある一定以上の能力を持つ人を認定する方法をとっています。

現在の認定試験が実施されている分野は、次の10分野です。

人事・労務・能力開発
経理・財務
営業・マーケティング
生産管理
法務・総務
広報・広告
物流管理
情報・事務管理
経営企画
国際業務

 まだ、この制度には、小生は、ここ2年ほど、この中の「国際業務分野」にボランティアとして関わっておりますが、各企業での認知度がまだ不十分で、ホワイトカラー層に知られていないこともあり、受講者や受験者は少ないようです。この制度のテキストや試験内容は、4つの能力のうち「円滑で正確な業務を遂行するために必要な専門知識」の一部に結びつくのではないかと思います。


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