その84

深せん、広州に
自転車通勤の行列がなくなった

 台湾へ最初に旅行した際には、自転車の行列に驚かされたが、いつの間にかそれがバイクに代わっていた。高速道路が開通した後で訪問したときには、空港からのタクシーがツバメのように車の間をスイスイすり抜けるのにはヒヤヒヤし、驚かされた。
 北京では、朝夕の通勤時にゆっくり、ゆったりと走る大量の自転車の行列にびっくりさせられた。今でも、中国を紹介するテレビ番組は、自転車の行列と雑然とした町並みで始まることが多い。北京の幹線道路は片側四車線で、さらに外側に二車線の右折やバスのための通路があり、交差点も立体交差が多くなり、スムーズに走ることができる。しかし、立体交差のないところでは大変である。一般の車、タクシーにバスが交差点に突っ込む。それに自転車と歩行者が加わる。自転車や歩行者は、道路を横断する際には、タクシーやバスの間をすり抜けて行く。交差点では、少しでも先に突っ込んだほうに優先権がある。隙があれば少しでも前へ出ようとドライバーは必死である。我先にと交差点に集中するから混雑の度合いは激しくなる。信号が青に変わっても先に進めないことも多々ある。これにクラクションが加わり、その喧騒で大変活気があるように見える。

 北京に比べると、深せん、広州という華南の大都会には自転車による通勤は多くはない。日本の都市より少し多いと感じられるくらいであろう。確かに10年ほど前までは自転車通勤が多かったという。台湾でも経済成長とともに自転車からバイクに代わったように、深せん、広州ではすでに車社会に入っている。
 深せんは、中国全土からの出稼ぎが多いために、たいていの企業では従業員用の宿舎を準備している。これらの人たちは、比較的職場が近く、自転車通勤の必要性は少ない。また、従業員を多く抱えている工場では、二交代、三交代制があり、送迎用の自前のバスを持っている。700万人という人口の割には、自転車もバイクも車も少ない理由がここにある。

 広州は、古くからの都会である。都会の周辺に工場も進出している。しかし、自転車通勤は多くはない。それは、最近は比較的金持ちが多くなって、自転車を遠距離の通勤には使用しなくなったからであるという。自転車ではなく、バスや車やバイクを利用する人たちが多くなった。工場を訪問してみると自転車置き場は完備しており、多くの自転車が並んでいる。しかし、最近の傾向として、自転車に代わって、バイクの数が相当増えてきているとのことである。商店街の道路の両側においてある自転車の数は日本の都市より多い。結構使用されているようである。近くまでの移動や運搬には、自転車を活用する。長距離の場合は自転車を使用せず、タクシーを使用することが多くなったという。

 中国国内での自転車の盗難は相当多いそうだ。1年間に6回も盗難にあってもう自転車を購入する気力を失った人も中国人もいる。今回われわれを親切に案内してくれた女性ガイドも新しい自転車を盗まれて、その後は買う気になれないという。鍵をかけていても取られるようである。盗難は、自分で使用するのではなく、中古自転車として販売するのが目的がらしい。その中古の自転車を販売する市場があり、自転車を盗むプロが存在する。だから中古の自転車の流通市場が成り立っている。6回も盗まれた人は、中古車市場で購入することも考えた。しかし、自分の自転車を購入することになるかもしれないためにバカバカしく、躊躇しているという。そんな事態になったら相当頭にくるからだ。彼女は、半分冗談の顔で笑って話をしてくれたが、どうしようもない現実らしい。

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