新連載

その82
中国深せんで安い労働力が絶えない理由

 深せんは、経済特区に指定される約20年余り前までわずか人口8000人の小さな農村であった。それが今では、人口700万人をはるかに超える大都市に変身し、さらに大きく変わりつつある。20年で人口が1000倍に膨れ上がったことになる。香港に近いという地の利を使って1980年にこの深せんを経済特区に制定して以来、香港をはじめとする台湾、日本、東南アジア各国、さらに欧米の資本が、導入され、電子機器の生産工場が次から次へと建設されハイテク都市へと発展した。700万人を超える人口のうち、深せんの戸籍を有する人口は、その五分の一にも満たないという。残りの500万人は四川省、湖南省などを中心とする中国全土からの出稼ぎ労働者である。

 昔、日本でも集団就職でやってきた人たちが、お盆と正月に故郷に帰ったように、中国人にとって春節(中国のお正月で2月初旬)に土産を持って帰省するのが習慣である。帰省してそのまま会社へ戻ってこない社員も多くいるという。定着率の最も悪いのがこの季節だそうで、日本から進出した企業にとっては、春節明けの出勤率が最も心配である。せっかく技能を指導して、あるレベルに達しても継続してくれないことには、新人に一から教育しなおさなければならなくなる。
 帰省と称してはいるが、実際は、給与や条件の良い会社や時にはカラオケバーのホステスとして転職してしまうのもいるのが実態らしい。中国では、原則として、農業従事者の子供は、農業以外の職業に就けない制度がある。しかし、ルールがあればそこに例外が存在する。地方の政府が実権を持っており、個人では都市へ出て働くことはできないが、地方政府が許可すれば問題はない。企業と高校が一定期間契約し、"帰省する"という条件があれば地方政府が許可するという。われわれ日本人が知っている表向きのルールと実態はだいぶ違う。企業に採用を仲介する会社があり、高校の3年生の途中から半年間の試用期間と称して集団で実習に出す。まじめに働けば卒業と同時にそのまま採用となる。企業としては、良い人材だけ採用でき、1年間契約にする。こうして毎年、新しい人材が供給し続けられる。企業として明確に言わないが、同じ地方から継続的に多くの人材を採用できるのには、このような理由による。個人では深せんへ自由に働きに出ることはできないが、このルートであれば可能になる。

 深せんの工場で働く彼女たちは、2交代制または、3交代制で働く。2交代制では、残業をふくめて12時間労働である。彼女たちのほとんどが働いたお金を田舎の両親へ送金するという。ある企業での例であるが、宿舎(寮)を準備したうえで、給料は、1ヶ月500元(日本円にして8000円ほど)、食事は3食とも会社の負担となる。食費代として1日3食8元(128円)、3食30日で計算すると240元で給料と食事代の合計740元(11840円)となる。宿舎費を除き、12000円程度で1人雇える計算である。基本的に契約は1年。契約終了時新しい人を雇えば給料は上げなくてすむ。通常、3年くらいで彼女たちは出身地の田舎へ帰って行くという。自然に減少する分は、若い人を採用すればよい。この方法をとり続ける限り、企業にとっての人件費は上げなくて維持できる。

 これが安い労働力の確保できるシステムの一端である。これから何年続くか気になるが、現実としてはあまり心配は要らないようである。統計によれば、ここ10年間の中国の人口増加率は約1.1%であるから単純計算でも毎年1400万人以上増える計算となる。少なくとも、ここ10年くらいは労働力の供給減を心配する必要はない。約13億人といわれる中国の人口は、カウントできない人や"一人っ子政策"にもかかわらず農村地帯では、子供が二人、三人いても住民登録されない部分も結構あるという。これらをあわせるとさらに増えることになるので、そうすると20年くらい労働力の心配はないだろう。

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