新連載
 その64    夜、天井から落ちてくるヤモリ


                熱湯をかけるのが、もっとも有効な退治法 

 
背中が真っ黒なヤモリ。本来、蚊など虫を食べてくれて、我々に危害を加えるわけではない。しかし、ヘビやとかげなど爬虫類に属し、慣れないと気味悪い存在である。日本ではあまり見られなくなったが、東南アジアや中近東では都会でもたくさん見られる。高級ホテルは別として、地方のホテルや安いホテルに滞在すると、必ずといっていいほど客室にも入り込んでいる。足には吸盤が付いていて壁や天井も自由に這い回る。観光旅行は別にして、海外出張や海外駐在などでヤモリに悩まされた経験のある人は多いだろう。

 どこから入り込むのかというより、ヤモリは家の中にも住み込んでいるのだ。ヤモリは、水気の多い、トイレやバスルームを常宿としている。熱い乾燥地帯の多いサウジアラビアでは、屋上にある水のタンクのなかに、ヤモリが死んで横たわっていたことがあった。幸い飲料水には使用していなかったのでほっとしたものである。このヤモリは時々リビングルームや寝室に入り込む。知らないうちに寝室に入り込み、夜、天井からベッドの上に落ちてくる。なんとも気味が悪い存在である。

 ヤモリは、退治しようとすると結構逃げ足が速い。人の気配があると、さっと水洗用のタンクのかげや排水溝に隠れる。ホーキもモップも入らない。棒で突ついても出てこない。水を流しても平気である。退治をするのに結構手間が掛かり、苦労する。最も手軽な方法は、お湯を沸かして、これを注ぎ込む方法である。
 できるだけ熱くしないとヤモリに届くまでに冷めてしまう。熱湯にして、これを手鍋に汲んでタンクの裏側や排水溝に注ぎ込む。場所によっては、全体に熱湯をぶっ掛ける。注意しないと自分もやけどをする恐れがあるが成功率は高い。ヤモリもビックリし、いたたまれずにタンクのかげから出てくるという寸法である。外に出てきたところでたいていはいちころ、御陀仏である。残酷であるが仕方がない。家の中に入り込んだヤモリは、たいていこの方法で退治した。
 しかし、この方法は、水でびしょ濡れになっても問題のない自宅のトイレやキッチンだけである。自宅でもリビングルームや寝室ではできない。また、熱湯が多すぎて中で死なれて、隙間に入ったまま出てこなくても困る。この手加減や湯加減も難しい。

 ホテルでも、夜遅くチェックインした時など、部屋に3、4匹いるのに驚かされる。我々が滞在するホテルは、それほど高級ではないので、フロントへ文句を言っても「問題ない」といって笑って取り合ってくれない。現地人はあまり気にせず、文句を言う人もあまりいないのであろう。ホテルで、秘策の熱湯を使用するわけにはいかない。夜中にベッドの上に落ちて来られるのは困るので、モップなどをつかってしばらく追い回す。しかし、時間切れで追い回すのをあきらめて眠りにつくこともある。あとはただ、「ヤモリ君よ。わたしの上に落ちてこないでくれ」と祈るだけである。


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