新連載
     その61  日本の抗生物質も利かない激しい腹痛


                   現地の強烈な薬に助けられた 

 海外出張では、体調に注意し、健康管理に記を配ることが重要である。体調が悪いと交渉もうまく行かない。よいアイディアや建設的な意見も出ず、目的が達せられなくなる。はじめての出張では、自分自身、緊張の度合いも高く、同行する周囲の友人や現地の駐在員も、配慮してくれる。しかし、少し慣れてくると緊張感も少なくなり、事故や怪我にあう割合も高くなる。最近では、プライベートな海外旅行も当たり前になり、馴れた人が多くなったきたが、その分食中毒などにも合うことが多くなる。

 まず、注意したいのは食事である。なま物はできるだけ避けて、火の通ったものを注文するように配慮をした方が良い。現地に受け入れてくれる日本人担当者がいれば、気をつけてくれる。しかし、相手が現地の人だけの場合は、色々希望は聞いてくれるが、彼等のペースに任せざるをえない。同じ地域への訪問も二度、三度と重ねると「だいぶ慣れてきただろう。」ということで配慮されることも少なくなる。自分自身でも気もゆるむ。確かに、何度も訪問するたびに身体に耐菌性が出てくるのか軽い腹痛くらいで済んでしまうが多くなるが。

 その時も私としては十分注意をしたつもりであった。フィリピンのマニラは何度も訪問して、慣れてきたとの判断もあった。友人のリクエストもあり、イタリヤ料理にした。現地の駐在員2名とわれわれ出張者2名の4人であった。ビールを飲みながら楽しく、打ち合わせをしたり、現地の状況を聞いたりして、ホテルへは9時ごろ戻った。2時間くらい経過した頃、腹具合がおかしくなった。腹がごろごろなりだし、なんとなくむかむかし、吐き気がしはじめた。これはまずいと思い、いつも持参している腹痛用の薬「正露丸」を飲んだ。しかし、どんどんおかしくなる。腹痛も激しさを増し、下痢も始まる。夜中であるし、友達に連絡するのも悪いと思って、なんとか朝までがまんした。この時ほど、時計の針の進み具合を遅く感じたことはなかった。

 早い時間に同宿の友人と連絡をとる。友人の連絡で関連会社の医者が駆けつけてくれた。もう起き上がる気力もないくらいに衰弱していた。昨晩からの病状を詳しく話したところ、この薬を飲めと言う。よく日本人出張者がやられる食中毒らしい。イタリヤ料理に使用されたスパイスの中に変なものが混じっていたのが原因ではないかという。この薬が効きが良いという。早速与えられた薬を飲む。この時ほど現地の関係者と医者を心強く感じたことはなかった。薬を指定された4時間毎に飲み続ける。時間をかけて回復を待つしかない。ホテルのベッドの上でエビのように身体を曲げて痛みをこらえて過ごした。夕方には、傷みもとれ、下痢もおさまり嘘のように回復してしまった。 

 ところで、前の晩一緒に食事をした日本人4人の中で、腹痛を起こしたのは、私一人だけであった。全員が腹痛を起こせば、料理自体が悪かったのであろうが、私だけであったから、その一部に変な物が混じっていたのかもしれない。その時の体調と運も影響するのであろう。私の体調も運も悪かったようである。

 この中毒に良く効いた薬は、現地の「イモジウム」という、非常に強い薬らしい。人によっては、副作用もあるらしい。私の場合は、幸い副作用はなく予想より早く回復に向った。副作用があったのかもしれないが、それまでの強烈な腹痛で副作用との判別が付かなかったのかもしれない。食中毒になったその夜、「正露丸」だけでなく日本から持参した抗生物質も試してみた。しかし、この時の中毒には効果がなかったようだ。

 我々が日本から持参する薬は強さもほどほどにしてあり、強烈な細菌に勝てないようだ。やはり、現地の病気には、その国の細菌に適した薬があるものである。この時、同時に十円硬貨大の錠剤も渡された。この錠剤を水に溶かして飲めという。下痢をしているので水分補給のためのイオン水を作る薬らしい。下痢をすると体内の水分がなくなる。補給をしないと体力の消耗が激しい。回復も遅くなる。できるだけ水分を補給して体内の細菌類を出してしまうのが良いようである。色々体験させられた出張であった。


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