快適な職場環境

1.はじめに

 近年のIT 技術の進展による産業構造の変化,及び労働人口の高齢化や女子労働者の増加による就業構造の変化に伴って,職場の労働環境,作業態様が大きく変化している。このような変化に加えて,デフレ不況下における企業競争の激化が、職場で働く多くの人達に対して,労働に伴う疲労やストレスを感じる人の割合を激増させている。今日は、あらためて労働に伴う疲労やストレスを感じることが少ない「快適な職場環境づくり」の問題を考えてみるべき時代ではないだろうか。 

2.VDT労働の一般化

 1980年代にME(マイクロ・エレクトロニクス)化の波は,オフィスにはOA(オフィス・オートメーション)化,工場にはFA(ファクトリー・オートメーション)化,店舗にはSA(ストア・オートメーション)化といった形で急速に浸透してきた。こういった職場ではコンピューター機器を用いる,いわゆるVDT(Video Display Terminals)労働が一般化し、旧来の職場とは違った肉体的,精神的,神経的負荷,いわゆるテクノストレス(techno-stress)が避けられなくなっている。今日、快適職場問題を検討する場合,次のような「VDT労働がかかえている問題」を考慮しなければならなくなってきている。

@作業者が長時間同じ姿勢を強いられる。
Aこうした静的負担が上肢から首筋,肩,背中そして腰にまでかかる。
B視覚に過度の負担がかかる。
C精神的にも旧来の機械・器具の操作とは全く異なる負荷を与える。
D個人作業が多いため問題あれば各個人に帰するという業務の特質があり,
  独立性の高い人が求められるため,チームで仕事を続け伝統的な日本企
 業の中でチームで仕事を続けてきた人にはなじみにくい。

3.メンタルヘルス
  一般に、「健全な精神は健全な肉体に宿る」と言われるが、最近では必ずしも、身体の健康だけで心の健康の問題を語れない場合が多くなっている。現代の社会的ストレスに対して不適応をおこす人々が増えており,快適職場を検討する場合、メンタルヘルス(心の健康)が重要な視点になっている。事故とメンタルヘルスも、非常に近い関係にある。頻回事故とメンタルヘルスの関連を明らかにし,メンタルヘルス対策を行うことで事故を減らしたという報告もある。
 社会的ストレスの原因には、次のようなことが考えられる。@価値観が違い職場に適応できない。A技術的ギャップが大きく対応できない。B人間関係の複雑化,希薄化。
 基本的には、職場の中で相互に温かく対応できる人間関係を構築して,相互に心の健康状態を日常的に把握しあえるようにしておくことが前提である。責任感の強い上司は、往々にして単独で対応しようとするが、対処が遅れると回復に予想外の日時がかかるものである。初期の段階で専門医の診断を仰ぐなどの措置も必要である。

4.今日のメンタルヘルスの注目すべき点

(1)成果主義の運用がストレスを招く

  業務目標とストレスとの関係を大企業522社を対象に調査した結果(平成12年8月、労働省人事・労務管理研究会)がある。「業務目標でストレスを感じる人の比率」を表したもので、「業務目標 自分の意向でかなり決められる:49% 」、「上司から一方的に決められる:72%」、「設定された目標に納得している:45%」、「設定された目標に納得していない:81%」となっている。
 いたずらに成果目標やノルマを設定したり,社員が目標に納得しないとストレスが高くなるという成果主義が抱える問題が社員のストレスに直結していることが分かる。成果主義そのものよりも、上司と本人両者の受けとめ方を含む制度の運用の問題がストレスに影響をもたらしているようだ。今更先祖がえりにより年功序列制度に戻るわけにはいかない。企業の存続発展は成果主義にかかっているという認識にたって,業務目標制度の的確な運用に工夫をこらしていくべきであろう。

(2)同僚との人間関係の崩れがストレスを招く

 (財)社会経済生産性本部の調査によれば,上司と同僚でどちらの人間関係が崩れた方がメンタルヘルスに悪い影響があるかを調べたところ,以外にも上司よりは同僚との人間関係が崩れた方が深刻であった。今の多くの企業が社員の個別化と同僚同志の競争という戦術によって,職場の運営を進めようとしているなかで,同僚との協力関係を築いていくのは困難な状況にある。人情論で解決するのもよいが,競争社会といえども協力的な行為に対して積極的に評価する仕組みも必要である。

(3)急増する勤労者の自殺

 勤労者を取り巻くメンタルヘルスの問題は近年深刻の度合いを強めているが,その象徴的事例が自殺者の急増である。

原因・動機別自殺増加率(人、%)

家庭問題

病 苦

経済問題

勤務問題

学校問題

男女問題

精神障害

平成 9

2,104

9,058

3,556

1,230

631

203

4,601

平成10

2,924

11,499

6,058

1,877

796

279

5,270

増加率

39

27

70

53

26

37

15

職業階層別自殺増加率(人、%)

無職
被雇用者
自営
主婦
学生
管理職
不詳
平成 9

11,590

5,696

3,028

2,191

617

516

753

平成10

15,266

7,960

4,355

2,684

818

713

1,067

増加率

35

32

44

23

33

38

42

                  (警察庁「平成10年中における自殺の概要資料)

 自殺の原因・動機別にみると、経済生活問題や勤務問題などの産業界関連の動機の増加率が大きい。また,職業別でみると,被雇用者,自営者,管理職は平均を上回っている。メンタル・ヘルス研究所が平成12年8月に大企業の社員4,000人を対象とした調査では、「死にたいと思うことがよくある」と答えた自殺予備軍は,実に5.5%に及んでいる。
 こうした自殺者の急増をもたらす背景の1つとして,近年の職場環境の大きな変化が指摘されている。バブル崩壊以降の企業業績低迷に伴う人員削減など企業組織の合理化による勤労者の精神的不安や経済のグローバル化による従来の年功序列人事制度の崩壊,それに代わる実力主義人事制度の導入による人事・労務管理の変化に伴う従業員の不安や混乱がメンタルヘルスに悪影響を与えている。
 人命は何ものにも変えがたいことであるが,業務上の自殺の場合,ちなみに過去の判例をみると企業が負担する費用は低く見積もっても1億円といわれている。企業側からもメンタルヘルスにつながる問題対応に然るべき費用支出が必要と思われる。

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