新連載
 その48    アラブの習慣と文化
     6 本当に疲れる一日二回の通勤


ITも、この習慣は変えられない

 サウジアラビアやクエートなど日中の暑さの厳しい中近東では、最も熱い時間帯は休息する。一般の会社の勤務時間は、午前中9時から正午と午後5時から9時の二回が普通である。正午になると、みんな帰宅し昼食をとる。そして、昼寝をして十分鋭気を養って夕方会社にでてくる。従って、一日に二回通勤することになる。通勤道路では、ラッシュアワーも一日四回発生する。ただ、通勤に要する時間は、日本のように一時間も二時間もかかることはない。たいていの従業員は、10分から30分くらいで会社へくることができる。
 毎日、摂氏40度を超える砂漠の中の都市は、町全体に緑が少ないために直射日光と照り返しで屋外に短時間でもいると頭がくらくらする。とても働くどころの環境ではない。暑い砂漠の中でテント生活をする人たちは、この昼の暑い時間は休息する時間にせざるをえなかったのであろう。朝明るくなりはじめると同時に起きて、働きはじめ、暑い時間には昼寝をして休息し、また、太陽の沈むまでの時間まで働くという習慣となった。これが一日午前と夜の二回働くシステムを作ったのであろう。

 テントの生活をやめレンガやブロック作りの家に住むようになり、ビジネスは近代的なビルディングで行われるようになった。現在では、家庭でも事務所の中でも、冷房が良く効いており、時折停電はあるものの、家や事務所で過ごす限りたいへん快適に過ごすことができ支障はない。中近東の多くの国は、産油国で電力料金も安く、エアコンの電源を入れっぱなしにすることに抵抗はない。屋内で生活し、ビルの中で仕事をする範囲では、午前中と夜間に仕事をするシステムを継続する理由はないように思われる。一日二回通勤する必要もなくなる。

昼の休息の習慣で困るのは、居住地以外の場所へ出掛けている場合である。ホテルで休養をとれる場合には、ホテルへ戻って夕方まで休息できるが、予約をしてない場合はこの昼間の時間に休息するところがない。夜打合せをして帰る場合など休息できない。昼間の時間は店も閉まってしまうので買い物もできない。観光のために見て歩くところもない。大きいホテルがある場合は、ロビーを借りて休息をとるか、友人宅へ押しかけ休ませてもらうしかない。地方へ出掛けると休息も不足がちになり、時間も自由にならずに疲れもひどい。

 赴任した当初は、この昼に休息を取る習慣にはたいへんとまどった。私の身体には睡眠を二回に分けてとる習慣が付いていない。慣れないために、時間もうまく使えない。一日に二回通勤すると、厳しい環境の中で、一週間が2倍の長さに思われた。単身赴任していたので帰宅し、食事を作り食べると休息時間も少なくなる。眠りにつき、少しうとうとするともう出勤時間である。午後の出勤のために目覚時計は離せなかった。夜は10時過ぎに帰宅し、自分で料理を作る。それを食べてほっとするともう12時近い。慣れない土地での健康を考えると、翌日のために睡眠時間は減らせない。12時ごろには眠りにつかなければならない。赴任して最初のうちは、仕事と食事と睡眠だけの生活であった。彼等現地人たちは、睡眠を昼間と夜の二回に分けてとる習慣を身につけていて、遅くまで起きている。時間をうまく使い、生活を楽しみ、夜中の2時、3時に眠る。彼等と同じペースの睡眠を二回に分けてとることを身体に覚えさせ、慣れるまでにだいぶ時間を要した。

 中近東のスーク(市場・商店街)は、午後の時間帯は勿論閉店するが夜遅くまで店を開きたいへんにぎわう。午前中の時間帯よりも、涼しくなった夜間は、家族連れの買い物客でいっぱいである。どこのショウルームでも、午前の時間帯よりも夜の方が売上げは大きい。こんな姿を見ると、我々と同じように、通常のビジネスの昼休みを短くして、夕方まで継続した方が効率的であるように思える。そうすれば、夕方ももっと早くから家族で出掛けて、買い物をする時間も長くとれる。

 我々から見て変えた方が良さそうに見えるこのシステムも、当分の間変わりそうにない。何千年にも渡る長い歴史の中でアラビヤ人の遺伝子の中に組み込まれ、記憶された習慣だから変えられない。一部の人達が働く時間を変えようと努力しても、その時間には相手がいないので仕事にならない。電話もつながらない。習慣を変えるためには、よほど大きなインパクトが必要である。IT時代がきて我々の生活が大きく変わっても、彼等のこの習慣は変わらないに違いない。


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