新連載
 その44     アラブの習慣と文化
   2 ハムやベーコンはごみ箱へ、ウイスキーは没収


             密かに楽しんだお土産のウイスキーも昔話

日本ではよほどの不信な行動をしない限り、荷物の検査をされることはなくなった。しかし、今から15年程前までは、日本の入国審査でも結構厳しい検査が行われていた。形状の割に異常に重いものや梱包のおかしいものは開けるよう指示され、検査官に確認されたものです。
 しかし、現在の日本の通関荷物検査が世界の常識だと思ってはならない。まだまだ荷物検査の大変厳しい国がたくさんあります。宗教的な背景もあり、その厳しさの典型的な国々がアラブ諸国といってもよい。とくにサウジアラビアは厳しい。

サウジアラビアの入国時の通関検査では、全ての荷物が開けられ、違法物品の持ち込みに対して厳しい取締りがおこなわれます。だから、手荷物検査を巡る通関でのトラブルは後を絶たない。アルコール類の持ち込み禁止は、今や、誰にでも知られるようになりましたが、食用のみりんや酢でも僅かでもアルコール含有の表示があれば、ウイスキーやブランデーと同じ扱いになります。ハムやソーセージ、ベーコンなど豚肉を使用したものが見つかると有無を言わさず、準備してあるごみ箱に捨てられてしまいます。私もヨーロッパからの再入国の際に、デンマークで購入したハムが指摘され目の前でごみ箱に捨てられた経験があります。

ビデオテープは、ポルノなど入っていないかどうかを早送りですべてチェックされます。数が多いとチェックに時間がかかるので、通関の時間を考えておくことも必要です。雑誌なども、女性の水着姿や下着姿が載っているものはすべて没収されます。日本の週刊誌は、その手の写真が多いために、特に日本人が持ち込む週刊誌類は入念にチェックを受けます。
 また、イスラム教は、偶像崇拝は禁止ですから、崇拝の対象になりそうな彫刻なども没収の対象になりますし、イスラム教以外の宗教書も持ち込むことはできません。
 生活用の荷物でも、梱包用にウイスキーなどの段ボールを使用することは、不要に疑われることになりますので絶対に使用しない配慮が必要です。ただ、外貨に関する規制はなく、入国時に持ち込む外貨を申告する必要はありません。勿論、現地でサウジリアル以外は使用できませんが。

参考までに、
イスラム教国への主な持ち込み禁止対象物品をあげておきます。

アルコール類(味醂、ウイスキー入りチョコレート等を含む。)
豚肉製品(ベーコン、ソーセージ、ハム等すべて)
女性の水着、下着姿の載っている雑誌、ビデオ、CD類
ポルノ類の雑誌、ビデオ、CD類
イスラム教以外の宗教書(英語版の聖書等)
崇拝の対象となりそうな偶像(彫刻、絵画、写真等)

サウジアラビアに比較し、イスラム教徒が多く、イスラム教を背景とした過激な事件の発生したエジプトでは、キリスト教徒なども多いために、街の中でビールもウイスキーも比較的自由に飲める状況にあります。
 中近東の国々でもその規制には少しづつ違いがあります。厳しい国と比較的緩やかな国があるので訪問する前に十分確認する必要があります。中近東の国を複数訪問する際には、持参するお土産などに注意して、訪問する順番に配慮し、トラブルの発生をなくしたいものです。
 毎日アルコール類がないと困る人は、最初に厳しいサウジアラビアに入国し、その厳しさを味わうと、次の国のありがたさを大きく感ずることができます。時には、アルコールがなくて毎日を過ごしている人たちもいるということを理解する良い機会になるでしょう。

湾岸戦争以前の話ですが、中近東のある国では、一時期、自分で飲むためのアルコール類は持ち込みが許されておりました。出張する際には、お土産として、必ずウイスキーかブランデーなどのアルコール類のリクエストがありました。アルコール類は、お土産品として大変な貴重品扱いでした。
 そのお土産品のブランデーやウイスキーをレストランに持ち込み、磁器製の(中身のわかるガラス製ではない)ピッチャーを借用し、テーブルの下で、ボトルから移し替えます。お茶用の小さいカップを借用して、食事の際に他のお客に分からないように、密かに楽しんだ経験もありました。レストランでも、当時は見てみないふりをして見逃してくれました。現在は、厳しくなって、このような現地駐在員の楽しみもなくなってしまったようです。飲酒(例えば密造酒)が見つかると警察に逮捕、監禁されます。「郷に入れば、郷に従がう」です。私は、モスレム(イスラム教徒)ではない等と気取ってみても法律違反なのです。その国の法律や習慣、文化を尊重して対応するのが、その国を訪問する者の基本です。

注意
  中近東での習慣や文化、ビザの取得など同じイスラム教の国でも、国により大きな違いがあります。また、制度の変更もあります。その国の最も新しい規則を把握することが大事です。


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