新連載
 その39 魅力あるスペインだが、狙われる旅行者 

                後をたたない理由がある 

 先月初め(2000年11月4日)ギリシャで日本人観光バス乗っ取り事件(バスジャック)が発生した。皆どうなることかと心配したが、犯人が投降して観光客の損害は最小限にすんだ。海外では、このような思わぬトラブルに巻き込まれることがある。今回はギリシャであったが、エジプトでは、宗教問題で多数の死者が出ている。比較的安全と思われるヨーロッパでも、旅行者の事故は結構起きている。大きな事件以外は、新聞記事やテレビのニュースにならないだけである。

 スペインを旅行してトラブルに合った人は多い。命まで奪われることは少ないが、多さの点では引けをとらないようである。政府もお手上げ状態で犯罪が少なくなる見通しはないようである。スペインでは置き引きや窃盗犯人が逮捕されてもすぐに釈放されてしまうらしい。
 最近スペインを旅行した人の話であるが、実際に犯罪を起こすのはスペイン人ではなく、スペイン以外の外国からきた旅行者で帰国できなくなったものや難民に近い労働者であるという。逮捕された外国人犯罪者の場合、パスポートを所持していない。犯人自身から国籍を確認して、その国の大使館へ連絡するが、その大使館が自国民と認めたがらない。そのような人間は、自国民ではないということである。大使館が認めなければ、強制的にその国籍の本国送還の方法をとれない。そして、ある程度時間が経てば釈放せざるをえなくなる。その拘留時間も48時間と短いようである。殺人や傷害の様な、凶悪な犯罪の犯人でない限り、48時間たてばまた街に戻ってきてしまう。そして再度犯行を犯す。この繰り返しとなる。犯罪者は、このシステムをよく知っているので全く平気らしい。 従って、この種の犯罪は減っていないし、減る見込みもない。

 被害に遭うのは観光客である。スペインに住む人の場合は、被害に遭って検挙される訴訟され、裁判になって実刑になる。旅行者の場合、訴訟した場合、被害者は自分の費用と責任で裁判に立ち会う必要がある。短期間滞在の観光客にとっては、よほど大きい金額でないと訴訟までやらない。旅行者は、費用も掛かるし、そのために長期に滞在はしない。また、訴訟のために再度スペインへの旅行はできない。結局は諦めるしかない。泣き寝入りとなる。これが実態である。犯罪者たちは、この事を良く知っていて、旅行者だけを狙う傾向にある。
  もう一つの理由は、犯罪が多くなると、比較的罪の軽い犯罪者をいつまでも拘置しておくスペースに困るということにあるらしい。軽犯罪者が、すぐに解放される理由は、拘留する場所に困るためである。傷害や殺人罪など重い犯罪者は、釈放できないが、比較的軽い犯罪を起こしたものは、その数の多さもあって早々に釈放せざるを得ない。この傾向は、他の国にも見られることであり、珍しいことではない。

 トラブルに会わないためには、できるだけ単独行動をしないこと、また、危険なところに近寄らないことである。しかし、観光客にとってはどこが危険かなかなか分からない。日本でも関東には関東の、近畿には近畿の危険な地域や場所があり、我々はそうした危険地帯に入り込んだり、近づいたりはしないのが普通である。これと同じである。旅行先では旅行業者やガイドの注意をよく聞いて、自己防衛する以外に方法はない。
  スペインには、欧州の他の都市とは異なった魅力がある。時間とお金の都合が付けばぜひ出掛けてみたい国である。出発が決まったら、旅行業者と親しくなって、根掘り葉掘り、どのような危険があるか、どこが危ないのか聞き出すことである。そして、常に、対応できる心構えをしてでかけることである。
 被害に遭うのは、外国人であり、今のところスペイン自身は、外国人からの苦情はあるだろうけれども、少しも困っていない。スペイン人からの苦情もない。だから、この種の犯罪に対する厳しい対策も後回しにされている。スペイン政府が、厳しい対策を取るためには、スペイン人が困ることにならなければならない。旅行者が少なくなれば、観光客を相手にするスペイン人も根を上げるに違いない。スペイン政府ももっと厳しい対策を考えなければならなくなる。たいへん魅力のあるスペインであるが、しばらく近寄らないのも一つの方法である。しかし、それにはたいへん時間がかかりそうである。 


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