新連載
 その35  ストレスがたまるシンガポール   

                 裸で噴水に飛び込み強制帰国

  シンガポールは、日本からマニラの上空を越えて直行便で約6時間半のところにある。赤道から140kmほど、ほとんど赤道の上に位置しているのが、世界地図や地球儀を見るとよくわかる。面積は淡路島とほぼ同じで、街の中は勿論のこと、島全体がよく整理され、管理され美しく保たれている。日昼の暑さは、平均気温摂氏30度を超え、激しいスコールもやってくる。夜間の平均気温は摂氏25度位で、夜になってもむしむしする日が多い。
  しかし、昼の事務所の中では、カーディガンを着て仕事をする女性が多い。寒いくらいに冷房を効かせている。過剰に冷房することをサービスが良いと考えているのか、文句を言う人もいない。確かに、外出から帰ると過剰な冷房が感じられて気持ちが良い。 

  毎日が夏で、日本のように四季の変化が見られないシンガポール。美しく清掃され、管理された街は、ストレスが相当にたまるようである。買い物も、お金のたくさん持ってきた旅行者にとっては、時間をつぶすになるが、ここで生活する駐在員には、あまりストレス解消にはならない。
  映画館はあるが、パチンコはない。カラオケバーもあるが、日本と異なり、相当高い(場所と店にもよるが、2〜3万円くらい)。日本人にとってはテレビ番組とVTRで録画を楽しむくらいが娯楽である。
  しかし、日本食以外であれば、バラエティーに富んだいろいろな食事が比較的安く楽しめる。駐在する日本人にとってのせめての救いである。また、美味しい果物が豊富に非常に安く購入できる。マレーシアとの国境を越えて、ゴルフ場もたくさんある。日ごろの憂さは休日のゴルフである程度まぎらわすことができる。家族を連れてきている出向者にとっては、子供と話す時間が取れていいかもしれない。
  しかし、単身赴任者や独身者は時間を持て余す。日本人出向者同志は、親しくなれば食事をしながら話し相手になり、ゆっくり情報交換ができる点では、他の国より便利であるかもしれない。日本からの出張者があれば、日本の状況を聞いたり、現地での厳しい生活の愚痴を聞いてもらえたりで、ある程度のストレス解消になるであろう。気のせいであろうか、シンガポールの友人には、話し好きの人が多いようである。
  しかし、実際に住んで経験をしないと四季の変化のない、管理された社会生活の本当の厳しさは、理解できない。時々しか、訪問しない出張者には、"きれいな街でいいですね。"程度にしか思ってもらえない。

シンガポール自然動物園のすべての動物は自然の中でのびのび、活き活きと生ており、周辺にある植物も非常に元気が良い。活き活きした動物の姿は、日本の動物園とは大分違うと感ずるのは私だけであろうか。この動物園は、観光客にとってひとつの魅力であり、訪問する価値がある。ぜひ見てもらいたいものである。わたしの友人の中には、出張者の案内で、その動物園へ2年間で10回以上訪れたという人もいる。私が訪問した際も、ゴルフをしない私のためにこの動物園へ付き合って案内してくれた。

  このようにシンガポールは管理された国なので、大きい事件はないが、小さい事件は多いようである。それもストレスが原因のたわいもないものといって良い。動物園の動物と熱帯植物は元気が良いが、シンガポール人は結構ストレスをためているようである。
  ある日、一人の日本人が酔った勢いで公園の噴水に飛び込んでしまった。それも素っ裸でである。これがまずかった。相当な暑さも手伝ったのか、あるいは、半分冗談のつもりもあったのかもしれない。夜遅くではあったが、娯楽の少ない国であるせいか、おおぜいの野次馬が集まり、現地人に写真まで撮られてしまった。そして警察に知られ、おおごとになってしまって、現地新聞「ストレートタイムス」の第二面のトップ記事をかざることになってしまった。素っ裸の写真は載らなかったものの、本人の顔写真と会社名、名前まで出てしまった。
  他の国では記事にならないことが、シンガポールでは大きなニュースになってしまう。単なるニュースではなく、このような行為をなくするために、新聞を使用して見せしめとし、啓蒙を図っているようである。新聞を見ていると、この種の掲載が多いことに気がつく。シンガポールを訪問したら、是非新聞を購入して読んでみて欲しい。
結局、その社員は、日本へ帰国することになってしまった。確かに破廉恥な行為ではあるが、この程度での国外追放は通常ないと思われる。「人の噂も75日」と言われる日本では、最近はそれより早く周囲も忘れ去ってくれるが、小さな島国のシンガポールでは、このような事件の主役は、しばらく舞台から降りることができない。本人も仕事にならないので、会社の方が気を利かせて日本へ帰国させるように配慮したものであろう。酔っ払い天国で育った日本人が、酒の勢いで気が大きくなると失敗をすることになった一例である。


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