新連載
 その31 喜ばれない民芸品のおみやげ  


              心のふれあいよりは、実質的な価値が優先される

 お土産を貰うことは嬉しい。特に、海外からのお客様にもらったその国らしい、心のこもったお土産は長く忘れることなく大切にする。値段ではない、その気持ちである。しかし、中国は、違うようである。中国に長く駐在経験のある友人が、出張中の食事の時に、私に中国人と付き合うコツの一つを忠告してくれた。
  「中国では、お土産が大切だ。お土産を持ってこない関係者には会いたがらない。特に、国営企業の関係者はその傾向が強い。」と。
 さらに、政府関係者で、比較的恵まれた生活をしている人には、電器製品など実用的に価値のある物でないと喜ばれない。確かに高価なものであれば喜ばれるに違いはない。しかし、当方の予算にも限度がある。そんなに高価なものをお土産にすることはできない。

 海外出張する場合、始めて会う人を考えて、日本からの気持ちの伝わるものを手土産として準備し、持参する。できるだけ日本的なものを考えている。日ごろから、民芸品などを見て適切な物を探しておくことにしている。欧米人の場合は、この様な民芸品を喜んで受け取ってくれる。お土産についてのいろいろな質問をして、喜びを表してくれる。そして、話がはずむ。
 しかし、中国では、これらの民芸品は喜ばれない。実用的な価値が少ないからである。実質的な価値や価格で評価されるらしい。外国人でも、殴米人と中国人では、お土産についても考え方がこれだけ違う。

国有企業関係の人へのお土産の話になったときに、親しくなった通訳に率直に実態を聞いてみた。勿論個人によって、また、所属する立場で、少しづづ考え方が異なるであろうが、一般的にはこんな考え方を持っているという。
  「日本人は、金持ちである。日本からの訪問者が、国有企業の関係者を訪問する際にお土産を持ってくるのは当然である。」
心と心の触れ合いではなく、モノ(お土産)をくれるか、くれないかの経済的な関係となる。お土産を持参しないお客はその人を高く評価していないということになるようだ。少々淋しい気もするが気を付けなければならない。

  政府機関の人たちと打合せをするときにもこんなことがある。打合せは、こちらから訪問するのが礼儀であり、当然と思っているが、二度目の打合せは、相手の方がこちらへ来て打合せをしたいという。わざわざ来ていただいては、申し訳ないと思いつつ、会場を設定するために相手の人数を確認して驚かされる。とにかく多いのである。プロジェクトなどの場合、関連する担当者が多く、全員が出席することが理由と思ったが、そうではない。。お土産を期待してこちらへでかけてくるようだ。中国での商談はこの様なものかと思いつつも、何度かの商談では、予定していた人数よりも来訪者が多すぎてお土産の数が揃わずに渡せないときも合った。ある特定の人に渡して、渡らない人がいては気まずくなる。

  また、事務所へ、お菓子など持参して「皆さんで召し上がってください。」というのも、歓迎されない。個人に渡らないとお土産という価値に値しないようだ。これは、殴米人も相当気を使っており、最初から予算を組んで対応している。
 北京で開催される大きい展示会などの場合、地方都市からお客さんを呼ばなければならない。この時は、メーカーとして、招待したかれらの費用は全て負担する。北京までの交通費、さらに、相手の仕事の階級にもよるが、ホテルの部屋を予約し、その費用は、すべて負担をする。昼の食事はもちろんのこと、夜は夕食つきパーティをするからこれも招待である。さらにお土産を準備する。その内容も金額も日本企業より格段にすばらしいものだそうである。この米国メーカーが中国で成功している理由がここにある。アメリカのある大きい通信機メーカーと比較されてわかったことである。

打合せの中で担当者から、うちの部長は、明日から出張に出掛けるので今晩しか時間がないと告げられる。何かと思ったら、今晩夕食に招待しないとそのチャンスがなくなるという含みであった。夕食に招待して欲しいという請求である。この様な話は、一度だけではない。その部長が本当に出張かどうかはわからない。このような話は、我々にだけかと思っていたら、どの会社でも同じようなことがあることがわかってくる。中国社会の習慣なのである。こんなことを知らないでは、中国でビジネスをする資格はない。
中国は、人と人との繋がりを大切にする社会である。「お土産を持ってきて当然。そのお土産以上の利益をそのビジネスで稼ぎなさい。」と言うことになる。お土産は、プロジェクトが成功したら十分回収すると考えられている。あまり多くの経験からではないが、このようなケースの多い商談では、成功することは少ない。政府関係者も比較的気安く会ってくれる。勿論いろいろな会社の情報入手のためであるが、関連するメーカーと平等に打合せをしたという、実績作りのための形式的な会合が多くなっているようだ。最近、中国のお役人の賄賂に関する新聞記事は度々見かけられる。契約までゆくかどうかは知らないが、情報を少しは提供して、便宜を図ってやるのだから、お土産を持参するのは当然という風土もあるのだろう。


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