新連載
  その26   英米人の人種差別意識


  アメリカでも、英国でも人種差別は歴然としてある。非常に多くのアメリカ人やイギリス人が、人種差別の意識を本質的に持っており、その多くの人たちは、人種差別をしてはならないという建前を、十分理解しているために、表面的に出さないようにしているだけである。確かに、出さないようにする努力は相当していると思われる。
  日本人は、他の人種に比較して、差別される機会は少ないようである。しかし、色々な機会に「何だ!失礼な。」と思ったことや「そういうことなのか。」ということに出会ったことは多いはずである。

英国のホテルフロントでの話
  ホテルでチェックインしようとして、フロントと話をしていた、その途中のことである。その日滞在するらしい、英国人がフロントデスクにやってきた。フロントマンは、私との話を中断、その英国人(白人)のチェックイン手続きを始めた。私のチェックインの手続きは、無視され中断された。理由の説明もなく、断るわけでもない。その相手は、特にそのフロントと親しい関係でもなさそうであり、私より前にチェックインを開始し、中断していた相手でもなさそうである。
その時は、私自身、若くもあり、時間的余裕もあったので文句を言わずに待って手続きを済ませた。あとで英国人の友人に、この時の様子を伝えると申し分けなさそうに「人種に対する差別、偏見である。」と言われた。

  事情が分かった現在なら、この様な目に会えば大きい声で文句を付けるだろう。日本の基準をそのまま適用することは避けなければならないが、欧米社会では、理不尽と思ったことや不愉快に思ったことは堂々と大きい声で文句を言わなければならない。黙っていると、また、次に来た日本人が同じ思いをする。主張しないと無視される。気を付けなければならない。 勿論、大きいホテルでは、フォークの形に並んで順番も明確でこの様なことはない。英国において中小程度の規模のホテルで私が遭遇した人種差別である。

アメリカのあるアベニューに住んだ人の話
 私の友人が、駐在を開始して、あるアベニュウーの一画の家を借りて住みはじめた。休日に庭で仕事をしていると隣人が近寄ってきて挨拶をする。差し障りのない自己紹介のあとで、隣人は「この家を購入したのか。」とさりげなく聞いた。友人は、「レンタルである。多分3年位で日本へ帰国することになるだろう。」と返事をする。その隣人には、「ほっ!」とした安堵の色が明白であったという。

 アメリカでは、あるアベニュウに黄色人種が住み始めると、家の価値が下がり始めるという。レンタルで住み込んだのであれば、いずれ出てゆく。そのアベニューにある家の価値は下がることはない。ニューヨークの近くの町では、日本人のような黄色人種が家を購入して住み始めると、ぽつりぽつりと家を売って他の町へ移ってゆく傾向があるという。早く家を手放さないと価値がどんどん下がるからである。
  その隣人が、その理由を説明したわけではないが、レンタルで入居したと聞いて安心したのは、いずれこの地区から引っ越してゆくと考えたからにほかならない。その基本的なところは、人種差別にある。
ある地域に日本人が住みはじめると、その数が増えてくる。そして、次は韓国人、そして、中国人が住みはじめ、黄色人種がどんどん増えてくるという。彼等アメリカ人にとって、自分の住んでいる地域がそうなるのは困ることなのである。彼等が折角手に入れた家の財産価値が下がるからである。表面的には、人種、年齢、性別で差別のない筈のアメリカに、差別はこんなところに明確に現れてくるのである。


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