新連載
  その25  日本企業はMBAを生かせない


                   外国では昇進の特急列車に乗ったようなもの

 先に、アメリカでMBAなど資格を取る方法の一部を述べたが、日本人ビジネスマンの中にもMBAを取得した人が多くなった。これまでは、企業から派遣されて資格を取得する人が多かったが、今では、生活費も含めてすべて自分で負担をして取得する人が増えてきている。
 日本の企業では、能力が高くやる気があり、かつ語学力のある人の中から会社が認めた一部の人が留学するケースが一般的といえるだろう。しかし、折角会社の負担する費用で留学し、MBA資格を得て返ってきても、その人を正しく評価し、十分処遇し、能力を発揮できるポジションに付けることは難しい。MBAを取得して帰国しても、大抵の場合、元の職場に戻って仕事をする例が多い。 
 「入社して先ずある部門に配属され、適性を見ながら教育研修が行われ、時間を掛けて育成される。技術部門、生産工場部門、経理部門、人事総務部門などの各部門を経験しながら、企業に実態を把握し、時間をかけて係長、課長、部長と昇進し、その一部が経営者のレベルに達する」。この様なシステムの日本の会社では、MBAの資格を持った人を生かせない。
 
 日本の企業の中でも、MBA資格を持った人が、各部門で能力を高めながら経営の専門家(経営層)になる道はあるが、最初から経営層のどこかに直接入れてはくれない。従来の上司を飛び越えて、高度な仕事をやらせてくれるようなこともない。同期入社の社員とMBAを取得したものに大きい差を付けることもできない。せっかく培った能力も、その一部を業務に応用できるだけである。
 従って、MBA資格とともに身につけた能力を、機会ある毎に、間接的にであるが、周辺の管理職層にそれとはなしに披瀝しながら、仕事をしていくことになる。時間をかけて、「さすがにあいつはどこか違う」ということを認識させた上で、部長や経営層に上らなければならない。彼の本当の力を生かせるのは、こうなってからである。それまでの間、本人は会社の待遇や処遇のきめられたシステムの範囲でがまんをして働かなければならない。

 海外の企業では、MBAを取得した場合、たいてい経営層の下部や中間部に配属され、最初から能力を発揮するチャンスが与えられる。卒業と同時に、企業の昇進の急行列車や特急列車に乗ったようなものである。彼らは相当高度な判断が必要な仕事を任され、びのびと仕事をし、実力を発揮し、活躍し実績を積み上げてゆく。
 しかし、日本人のMBA取得者は、活躍するMBA同期生の姿を横目で見て、実力を発揮する姿に刺激されながらも、じっと耐えながら時期の来るのを待たなければならない。本当に資格を生かすことができるのは部長職より上の立場となってからである。
 日本の企業の中でもMBAが、成功し、活躍している例は少なくないが、大企業ではMBA取得後、数年で退職し、新しい道を求めている人も多い。私の知る範囲では企業に残っている人は非常に少ない。勿論、最初はMBAを取得後も、企業に戻って活躍するつもりで留学する。しかし、帰国後の処遇やその企業の文化の相違で期待通りの活躍ができないまま、本人も不本意に何年かを過すことが多い。会社もMBAを取得してすぐに退職されては困るが、ある程度期間がたてば退職されても仕方がないと考えているようである。そのような時期が来ると日本人MBAは、外資系企業へ転職するか、独立するケースが多くなる。折角採用し、お金を掛けて育成したMBAを逃がしてしまうとは、実にもったいない話である。

 最近は、企業の方でも積極的に留学させることは少なくなったような気もする。一方、一部の企業では、この様な特殊な能力や資格を持った人材を処遇できる制度を採用しはじめている。また、企業からの派遣ではなく、自分でMBAを取得する動きも多くなっている。日本女性もある程度企業で働き貯えを持った後に、その企業を退職し、個人でMBAコースへゆく人も多くなったという。今、日本でも時代の流れが、大きく変りつつある


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