新連載
 その23 米国の評価の仕方とくびの切り方


収入アップには転職が普通
  アメリカでは人を採用する場合、必要とする「能力」を持っているかどうかで判断する。年齢、性別に関係ない。給与も、能力とその能力に見合ったと仕事で決定する。さらに能力を高めようとするならば、自分で勉強するか、夜間に学校へ通って何か新しいことを学習する。能力を高めた時点で、その企業と職場で満足できる給与が得られなければ転職をする。
 先ず会社に入り、仕事をしながら、資金を貯えて、ある程度の資金をためたところで、大学院へ入学し、更に高度の能力を得る。そして高めた能力を発揮できる職場と見合った収入が得られる会社へとステッップアップする。収入をよくするためには、会社を替わることが必要なのである。
  アメリカでも、一つの企業で昇進や昇格する制度は勿論ある。しかし、自分の人生は、自分で設計し、三度や四度の転職するのが普通である。大きい会社でも、一生同じ会社に勤めて働くのを辞める人が多い。
このようなわけで、アメリカでは人を採用するにあたっては、まず業務内容を明確にする。その内容で給与も決定する。日本のように「45歳以下」とか「40歳未満」というように年齢を条件に入れてはならないことになっている。従って、日本のような定年制度もない。
 土木作業とか、建築現場、運搬というような日本であれば男性の職場と思われるところでも、募集にあたっては、男性という条件を入れられない。だから、荷物を運搬するという相当きつい仕事でも、男性に混じって女性の働く姿が見られる。
 
昇給交渉は記録で
  同じ仕事を継続する時には、毎年昇給に関しての交渉がある。すべて、自分のボスと直接交渉する。その際には、過去1年間の高めた能力と実績を明確にする必要がある。日本でも直接交渉する会社も出てきたようだが、アメリカではほとんどこの制度のようである。評価をする上司(ボス)も日本と異なり、大変である。常日頃から、部下の仕事の結果をきっちり把握しておかなければならない。
 自分のポリシーに従って仕事をしたかどうか。期待した業績をあげたかどうか。従わなかった場合や結果がよくなかった場合は、全て記録しておく。この記録の有無が重要である。交渉の際、昇給を抑えたければ、叉は、昇給を認められない場合には、上司は、いつ、どんな時に何があったか、どのような失敗をしたかなどを説明できなければならない。説明できなければ、昇給させなければならなくなる。反論できないからだ。反論できずに昇給させなければ訴えられることもある。

クビの通告は金曜日の午後
 その人が仕事に対して十分な能力を持っていなかったり、従わないために辞めさせたいときも、辞めさせるにたるだけの理由を説明できなければならない。この様なことに対して日本人は慣れていないために十分理由を説明できず、失敗をすることも多い。本当にやめてもらいたい場合には、時間を掛けてその人ができそうもない難しい仕事を与える。そして、できなかった実績を積み上げる。頃合いを見計らって退職させる。
通告の表現も難しい。いきなり首だとはいわない。呼び出して、静かに「翌日から貴方の仕事はない。」と言うような言い方が一般的である。この様な通告は金曜日の午後にすることが多い。通告は周辺にもすぐに分かるので居心地も悪くなり、退社時間を待たずに帰宅するものも出てくる。
  仕事では、常にボスに対して報告することが求められる。ボスの期待にきっちり応え、実績を上げているかどうかは、日常の双方の応対から推測はつく。日本の会社では、転勤や職場異動など頻繁にあるから、何時別の上司に使えるかわからない。だからよほど嫌っているとか、ウマが合わない場合を除き、別の上司とも変な対応をすることはない。自分の仕事に関係なくとも、少々は手を貸したりして、円満な対応を心がけるのが普通である。
しかし、アメリカ人は、上司以外からの仕事は受け付けない。その代わり、上司(ボス)の評価には、部下は非常に敏感である。関係が悪くなると、上司は部下にあまり指示をしなくなる。時には、別の担当者に指示が行くようになる。そこで、部下は「そろそろ危ないな」と感じるようになる。そうなれば、部下の方も新しい職を探すことを始めなければならない。そして、「金曜日や休日の前日の通告」となるのが一つのやり方である。

突然の解雇通告の例は少ない
  ある日出社したところ通用門のところで守衛に呼び止められ、突然解雇を通告されることもある。その時、私物を入れるための箱(段ボールなど)を渡される。前日まで、自分がいた机のところまで行き、私物のみ箱に入れるように言われる。仕事で使用していた電話帳や資料などには一切手を触れさせてもらえない。すべて守衛(ガード)立ち会いのもと、監視つきで机の中やロッカーの整理をしなければならない。持ち出せるものは、本当に個人のものと認められたものだけである。あとで個人のために使われたり悪用されたりしないようにするためである。この辺は徹底している。しかし、こんなことは最悪のケースである。この様な突然の辞めさせかたは実際は少ない。


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