新連載
 その22  南部なまりと慰めてくれたが


               楽しい食事の会話に参加できずに情けない思い

  一ヶ月ほどアメリカの各地域を映像機器商品の販売で巡回していたことがある。その時は、日本商社のアメリカ人担当者と二人ずれ、ニューヨークを出て10日間で西海岸も含めての五都市を回った。
 アメリカ人は、コネティカットの出身で非常に早口で英語を話す。コネティカット地方の人たちは、一般的に話すスピードが速いといわれる。彼もその典型であった。幸い、彼は日本商社に働いており、日本人と話しに慣れている。日本への出張も何度か経験しており、日本人の考え方についても相当理解がある。
 私とは、その時がはじめての対面であったが、私の英語のレベルが低いことは直ちに理解してくれたようだ。そこで、私との話には、できるだけイディオムを使わずに単純な表現、難しい表現を使わないように無理な注文を出しておいた。
 
 野球場やアメリカンフットボール球場の関係者との商談であり、面会するのも説明するのもスピードが要求される。たどたどしい英語ではうまく行かない。商品については出発前に十分すぎるほど説明しておいた。彼もセールスマンのプロフェショナル、商談の時は、準備した資料を使用して、例の速さで商品についてまくしたてる。客先から、新しい質問が出ると、私が質問に答えて、2人3脚で商談を進めていった。
 商売の話であるから、疑問な点はその場で解決しておかないと禍根を残すので注意をする必要がある。私が質問をすると相手に確認し、ゆっくりした話し方で解説を加えつつ、説明をしてくれる。英語と英語の通訳みたいなものである。この調子なら、成果も得られるだろうと安心をした。
 
 シカゴ、デンバー、オークランド、サンフランシスコを経由してサンジエゴに来た。南の方に回って来ると南部なまりがあって、日本人も言葉には苦労すると聞かされていた。商談の際は、彼も神経を使って、慎重に説明をしてくれる。問題はない。 やれやれである。
 ところが、一緒に昼食をとることになった。折角日本から来たのだから、商談の相手先がステーキをご馳走するという。5人で食事である。当方としては、昼の時間くらい英語の神経を使わずに食べたい気持ちもあったが、客先の招待でもあり、いただくことにした。
 4人のアメリカ人たちは、商談の時と違って、話題も変るし、話し方もノーマルスピードである。にぎやかにどんどん話題も変り楽しそうに食事を進める。こちらは、なについて話をしているかは、おおよそわかるのだが、話がどういう方向へ進んでいるのかわからない。分からないような顔もできないのでとにかくにこやかに話を聞きながら食事をする。
 話が中断した時に、今の話はどう意味なのかとそっと聞いてみた。ところがである。彼は「実は、なまりがあって俺も半分位しか分からないのだ。」と答えたものである。商談と異なり、食事の会話で面倒になって答えなかったのか。それとも、彼が気をつかって半分慰めてくれるために言ったのか不明である。日本でも東北なまりの人と、九州弁の人が方言を使って会話をしたら同じようになるのかもしれない。この時もその程度であったのかもしれない。結局、私は最後まで会話に加われずに終わって しまった。英語力のなさで情けない思いをした経験である。 


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