社長さんへの手紙
その背景

松下幸之助の経営理念

 松下幸之助の経営理念は「綱領」、「信条」、そして私たちの遵奉すべき「七つの精神」からなる。その後「共存共栄」が加わった。
 
 企業は社会からの預かりもの、正しく経営し、正しく発展させ、社会の発展と人々の生活向上に貢献することが当然の務めであるとして「綱領」が制定された。あわせて、社員一人ひとりが仕事を遂行する上で基本とすべき心構えとして「信条」が制定された。さらに、社員が日々の仕事をする上で守るべき心構えとして、私たちの順法すべき精神として「七つの精神」が制定された。
 
 これら「綱領、信条、七精神」は巻物になっており、職場単位での朝会では、社員が順番にリーダーとなり、これを読み上げ、全員が唱和する。毎月初めに事業部、販売会社別に開催される総合朝会でも、部門長が読み上げ、全員で唱和する。海外の事業場や工場でも例外ではない。


綱領
産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す

信条
向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し、各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること

私たちの遵奉すべき七つの精神
@産業報国の精神
 産業報国は、当社綱領に示す処にして、我等産業人たるものは本精神を第一義とせざるべからず

A公明正大の精神
 公明正大は、人間処世の大本にして如何に学識才能を有するもこの精神なきものは、以て範とするに足らず

B和親一致の精神
 和親一致は、既に当社信条に掲ぐる処、個々にいかなる優秀の人材を聚(あつ)むるも、此の精神に欠くるあらばいわゆる烏合の衆にして何等の力なし

C力闘向上の精神
 我等使命の達成には徹底的力闘こそ唯一の要諦にして、真の平和も向上も此の精神なくてはかち得られざるべし

D礼節謙譲の精神
 人にして礼節を紊(みだ)り謙譲の心なくんば社会の秩序 は整わざるべし、正しき礼儀と謙譲の徳の存する処、社会を情操的に美化せしめ以て潤いある人生を現出し得るものなり

E順応同化の精神
 進歩発達は自然の摂理に順応同化するにあらざれば得難し、社会の大勢に即せず人為に偏する如きにては決して成功は望み得ざるべし

F感謝報恩の精神
 感謝報恩の念は、吾人に無限の悦びと活力を与うるものにして、此の念深き処、如何なる艱難をも克服するを得、真の幸福を招来する根源となるものなり

 松下幸之助は1918年創業以来、「何のために事業を行うのか」という事業の「真の使命」について深く考えるようになった。
 
 1932年ある宗教本部を訪問し、信者が熱心に奉仕活動を行う姿を前にして、「人々の心を救うのが宗教の使命であるならば、産業人の使命は貧乏を克服し、世の中を豊かにすることにある」と思い至り、社会に対する責任を「綱領」で明示し、合わせて「信条」を制定した。
 
 1933年「産業報国」「公明正大」「和親一致」「力闘向上」「礼節を尽くす」の五精神を制定し、その後「順応同化」「感謝報恩」の二精神を追加し、現在の「七つの精神」となった。

共存共栄の精神
 1964年7月 熱海において販売会社・代理店社長懇談会を開催した際、厳しい経営に直面していた経営者から当時の松下電器に対する厳しい意見が相次いで出された。
 
 その時に創業者が経営者の意見をよく聞き、出席者の安定経営が重要であることを確認し、共存共栄を実現するよう約束し、自ら営業本部長代行として、様々な改革を断行した。この会議が熱海会談と言われるもので、この時から共存共栄の額を作成し、経営方針と共に表示されるようになった。

出展
社内誌(月間)PANA2011年12月号
特集 経営理念 パナソニック株式会社発行


「社長さんへの手紙」の背景

 私は、パナソニック社(旧松下電器産業株式会社)に定年まで勤務した。現役時代は、QCサークルやZDグループの事務局なども含めて品質管理や品質保証部門で品質の維持向上のための体制構築活動を約15年経験した。
 
 その後海外営業に転じて、欧米諸国への映像機器、無線機器などの営業販売活動を、資材購買部門では中国、東南アジアからの国際調達業務を経験した。

 この間、毎日の朝会で「綱領、信条、七つの精神」を唱和して仕事を開始し、日常発生する業務問題は松下幸之助の経営理念、経営の在り方を判断基準として解決に当たってきたつもりである。

 私の定年退職後の中小企業診断士としての活動も、この度の「社長さんへの手紙」も、生産、営業、調達という松下での業務体験、松下幸之助の経営理念がベースになっている。
 
 それでもあれこれ難しいことを大上段に言うのではなく、工場やお店を見学させて戴き、社長さんからいろいろ話を伺うことができた際、できる限り、社長さんと同じ目線で、常に対等な立場での指摘やアドバイスをという配慮をしてきたつもりである。 
 
 今でも松下幸之助の著書は時折り読み返している。「社長さんへの手紙」の背景にある考え方や判断の基準は、現役時代学んだ松下幸之助の経営理念に立脚したものであると確信している。


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