日本版
6シグマ
社長さんへの手紙

社長さん、会社の外での
改善提案の自慢話は災いのもとです!

 先日社長さんから、新素材を使用したある機構部品を大変経済的に加工する技術を確立したという話をお聞きしました。この加工方法は、従業員の改善提案がもとになったものだそうですが、他社の既存品と比較して、大幅にコストダウンが見込める画期的な発明だということでした。ところで社長さんは、この社員の改善提案をある集まりの席で、自慢話として何気なく話してしまったようですね。
 取引き先の社長が、この種の情報を聞き逃す筈はありません。その時は何気ないふりをしていましたが、早速この新加工法で製造した機構部品に関して、大幅な値引きをバイヤーに指示したようです。社長が大幅なコストダウンができることを知ってしまったから当然です。社長さん、会社の外での自慢話は災いのもとです!


社員の改善提案の成果が
一回の値引きで一瞬に飛んでしまった!
 社長さんの会社は、これまで長い期間、社員全員参加での改善提案活動を展開してきています。そして多くの成果を上げてきました。ただこれからは、今まで以上にその成果の取り扱いには十分な注意が必要です。
 大幅なコストダウンは、簡単にできるものではありません。原材料から作業工程、設備機械まで、真剣に調査・研究し、改善点を見つけ、プロセスを再設計し、結果を確認するという作業を繰り返し初めて実現できるものです。従業員の改善提案の頑張りでできたコストダウンの成果は本当に貴重で、大切にしなければならないものです。
 この種の情報は、本来社外秘のはずです。特に取引先には要注意です。営業担当者は、いつもお客からの値引き要求への対応で苦労させられており、自分から軽々しく漏らすことはないでしょう。世間では、会社の機密情報が漏れてしまうのは、そのつもりがなくても、社長さんの口からが最も多いようです。今度の場合も、社長さんは、この画期的な加工方法を我社の発明として、これをどう経営の武器にしていくかより、先ずは自慢したくなって、外部の席で、ついついうっかり話題にしてしまったのかもしれませんね。
 現実には社長さんの自慢話で、社員の改善提案の努力が取引き先からの値下げ要求で一瞬にして吹き飛んでしまいました。しかし、これを機に、社内の改善提案活動の成果は、ぜひ大切に蓄積し、会社の利益の確保に結び付けるようにして下さい。そして、特にコストダウンで得られた利益は、功績のあった社員へのご褒美として一部還元してあげて下さい。
 その上で、これからの改善提案活動の成果をもっと高めていくために、どのように運営していったらいいか検討してもらえれば、災い転じて福となすになります。


「日本版6シグマ」からの提案
会社の改善提案活動を
6シグマの「Work Out」としての運営を!

 「日本版6シグマ」が手本としているジャック・ウエルチの「6シグマ経営」には、三つの基本概念がある。一つは競争力ある企業にするために、勝負している取引き先やマーケットで一位あるいは二位になれという「No.1、2事業戦略」。二つは組織をスリム化し、社員を戦力化するという「People Out」。三つはあらゆる業務がよりよく行われる方法を全社あげて追及するという「Work Out」。
 この「Work Out」は、ここの社長さんへのレターでいう、日本企業の歴史に古い「業務改善提案活動」に近いものであろう。業務の改善によって、無駄な仕事を整理していく活動である。ジャック・ウエルチの「6シグマ経営」では、この「Work Out」にどう取り組んだのか、その概略を紹介することにしたい。

 日本企業における「改善提案制度」は、社員一人一人の主体的、自発的なやる気に支えられたボトムアップ型問題解決活動である。これに対して、「Work Out」は経営と現場が一体となった問題解決活動である。 
 この「Work Out」を、ジャック・ウエルチは、社内における技術や製造、販売、顧客サービス、管理等の各部門の壁を取り除き、さらに社外の原材料や部品、製品の仕入れ先や設備購入先とも一体となって、「顧客満足」という共通の目的に向かって労力と知力を出し、業務を改善するという、我々の夢である「境界のない企業」の創造をめざす活動でもあると言っている。

 この「Work Out」にあって、第一段階は、社内のあらゆる部門から様々な職位の社員が集まる「タウン・ミーティング」の開催で始まる。このミーティングで。責任者が業務内容を説明し、部門が抱える課題を提示し、いったん退場する。
 第二段階では、課題別にグループ分けされた社員によって、提起された課題が議論され、解決策がまとめられ、提案される。
 第三段階では、責任者が再び登場し、提案を採用するか、却下するか、さらに情報を集めるか、その場で明言しなければならない。あいまいな返事をして、問題をうやむやにすることは許されない。最高の解決策が得られたら即実行に移す。詳しい情報をもっと収集したい場合は、情報を提供してくれる社員チームをその場で任命し、最終的な決断を下す時期を明示する。
 この「Work Out」は、最初は社員がなかなか発言できず、マネージの中には社員による問題解決に否定的な態度を占めす向きもあったが、やがて理解が深まると勢いよく動き始め、社内のあちこちで開催されることになった。
 そして驚くべき成果によって、社員と会社の信頼の絆が強まり、さらに職場の様々な問題を提起し、不合理なシステムを改善する現実的な活動として「6シグマ経営」の柱になっていった。
 最後に、「Work Out」における問題解決のためのプログラムとして、「日本版6シグマ」では「W型問題解決フロー」に沿った「BSTプログラム」が用意されていることを明記しておきたい。 


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