新連載
 その18  日系企業が評判の悪い理由    


                日本人だけで相談し、結論を出し、指示する

  仕事をよく教えて現地従業員に評判の良い日系企業もあるが、なかなか権限委譲ができず評判の良くない例もある。欧米に進出した日系企業に多い。
 何か大きな問題が発生した時や日本サイドから課題が与えられた時の解決方法は、極めて日本的である。とくに今まで起きたことがない問題や解決の経験のない例の場合がその典型である。緊急であればあるほど、速く結論を出さねばならない。経過や背景を現地従業員へ詳しく説明している時間がない。結局は、背景が理解できる何人かの日本人で夜遅くまで掛かって結論を出す。現地人従業員は、参加していない。
  欧米では、あまり残業をしないため、早く帰ってしまうので現地従業員を含めた検討がし難いことも理由の一つにある。結論が出るまで残業させるのは、欧米的ではないと日本人が考えているせいかもしれない。

 翌朝、突然問題とその結論を手短に説明し、指示しその通りやらせる。その結論に至った背景や理由の説明も詳しくは行わない。詳しく説明している時間がないし、多分あまりよく理解できないだろうと思っている節もある。事情を知らない彼等は、「なぜ我々には相談しないのだろう。」「一緒に考えないのだろう。」と言う不満が残る。そして、いつまでたっても、この種の問題の解決方法を現地従業員へ引継ぎしたり、伝授したりできないでいる。

 日本的な問題解決の方法は、合理的でない場合が多い。先ず日本の本社の考え方があり、それに基づいて結論を出すのが普通である。日本人や日本の企業の考え方を理解していないと納得できない場合が多い。この日本的な結論の出し方は、なかなか指導できないし、納得できる説明も難しく、理解がされることも少ない。
 
  日本企業であるから、このような日本的な解決法方が有効だし、許されもする。ただ、現地化を進めるためには、これらの背景や考え方を含めて理解してもらわなければならない。しかし、これらの問題を現地の次元で考えてから、結論を出すのでは時間がかかり過ぎる。このためどうしても、何時まで経っても、この日本的な問題解決方法が優先されてしまう。この傾向は、日本人が多くいる企業ほど強い。日本人だけで相談し、結論を出し、指示するというやり方が続く限り、何時まで経っても現地従業員へ権限委譲は進まないし、日系企業の評判の悪い一面はいっこうに解決されない。

  日本企業の中で実力を上げ、更に高い能力やポストを期待し、求める人にとっては、このやり方には我慢ができない。相談もされずに、一方的に指示されるだけでは「やっちゃおれない。」と言う気持ちになる。向上心の高い現地従業員の偽らざる本音であろう。
 ただ、そこまで期待をしない一部の従業員やあきらめているしまっている従業員の場合は、じっと我慢をし従うだけである。一般に、東南アジアでは、黙って従う場合が多いように思われる。指示される方が楽であるし、責任を負わなくて良いからかもしれない。欧米諸国では、これでは面白くないから、このような経験をすると日系の企業に見切りをつけて、欧米系の会社へ転職してしまう人間が多い。

 
                 外国でも任せて評価する風土づくりが必要
 
  現地人に仕事を任せる風土のない会社では、従業員の定着性が低い。欧米人が、転職を決意するのは、収入が原因の場合が多い。企業が、良い人材を確保する方法ために、報酬を良くし、ストックオプションを制度として持っている。
 しかし、最近では、その傾向も変り、よい人材を確保するのは、その会社に働き甲斐を持てる環境を創ることであるといわれている。報酬などの金銭的なものだけではなく、働きやすい環境や自分の能力を超えて挑戦できる仕事ができる風土があるかどうかになっている。緊急時、あるいは大きな問題が発生した時、一緒に検討し、結論を出し、ともに苦労し、喜び合う風土が期待されている。現地従業員へ権限を委譲する方向や方針が見えないようでは定着性は期待できない。

  日本で一流の企業と見られている日系企業でも、現地の従業員には理解が難しい。給与体系も、日本のものをそのまま持ち込んだままだし、業務内容もマニュアル化されていないケースがある。そのため、本当に能力のある現地の従業員が適切に処遇されていない。欧米に進出した日系企業に、一流のビジネスマンが入社しない原因の一つに、この様な背景があるのかも知れない。
  欧米では、業界でしかるべき能力を持った人の報酬にはそれなりの相場がある。日系企業の多くは、最初からそれだけの給与を出すことができない制度になっている。最初、採用すると、お手並み拝見で、その後の実績を見て昇給する制度をとるが、しかし、その後の報酬の上げ方も極端に大きくはできない。少しずつ上げる。日本人の責任者よりも、高い給料を支払うなどは決してできない。優秀な人でも、最初は仕方がないと入社をして様子を見ていても、その後の処遇も改善されないから、結局は去っていく。
 すでに改善を図っている多くの企業もあるだろうけれども、これに近いことが日系企業で行われており、評判の悪い理由となっている。日本の文化を超えて真剣に検討したい問題点の一つである。


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