新連載
 その14   トイレでランチを食べないで 2


                日本にもあったトイレでの飲食

「トイレで飲食厳禁」
トイレ内での喫煙、飲食はご遠慮下さい。
最近、トイレにて飲食し、空缶を放置することが多発しています。
この様な行為を見かけましたらご連絡下さい。
                              教育指導課

 「こんな張り紙を日本のある企業で発見した。」と、前々回、NO12で掲載した後で、友人から話を聞いた。信じられないけれども、本当のことだという。この張り紙は、手洗い場に張られているのではない。個室の中に張られてあったと言う。その会社をちょっと訪問したくらいでは、発見できない。トイレを借用することはあっても、個室まで借りる機会は少ないからである。
 そっと掃除のおばさんに聞いてみたら、食べ物の空き袋などは、残されていないという。そして、空缶が発見されるのは、だいたい午前中にそれも割合早い時間とのことである。現場を見たわけではないので推定の域を出ないのだが、どうも朝寝坊の社員が、朝食をとらずに出社し、あらかじめ準備したものをトイレで食べるらしい。そして、そのときに飲んだコーヒーやジュースの空缶を置いていくらしい。

  たいていの会社では、自分の机でお茶やコーヒーを飲むことは許されるようになっている。従来のようにお茶くみの社員が、入れてくれるところは少なくなっていると思われるが、自分で販売機から購入するか、湯茶の準備室で自分が入れる場合は、割合自由に飲める。 製造工場や生産ラインのあるところでは、仕事中にコーヒーを飲むことは許されていないし、飲食物を持ち込むこともだめである。整理整頓の点や品質管理上からも禁止されているのは当然であり、理解できる。
 しかし、今回張ってあると聞いた会社は、最先端の技術を扱っている会社でもあり、フレックスタイムを導入しているという。喫煙だけは、最近どこの会社でも結構うるさくなっており、厳しいところではわざわざ建物の外に出て喫煙させる会社もでてきた。然し、コーヒーやお茶はパソコンの上にこぼさない注意をすれば個人の自由である。研究職などは勿論のこと、製造会社でも生産コンベアラインを持たない部門以外、事務職でもフレックスは当たり前になっており、仕事中のコーヒーなども比較的自由である。

 若者の生活も大きく変わっている。インターネットやEメールで夜遅くまで楽しんだり、通信したりするのは当たり前になっている。私の経験でもパソコンに向って仕事をしていると時間の過ぎるのを忘れる。パソコンでチャッティングを楽しんでいる内に、あっという間に深夜になってしまうのだろう。テレビの番組も深夜の方が楽しめるものも多くなった。このような傾向が朝寝坊の社員を多くしているのかもしれない。目覚し時計のなったのも無意識に止めて眠りすぎてしまい、ぎりぎりの時間に飛び起きて、家を飛び出して来る。途中駅かコンビニで缶コーヒーと菓子パン等を取敢えず買って会社に飛び込む。少し時間が過ぎた頃、おもむろにトイレに入って朝食代わりに食べる。推定すると、こんなところだろうか。
 いまやどこの会社でもトイレは実にきれいになっており、悪臭も少ない。抗菌をうたった製品も多くなり、便器なども抗菌のものが使用されている。「用を足しながら?」かどうか分からないが、静かに食べる。時々、隣からそれなりの音が聞こえて来ることもあるが気にしない。案外、隣の個室でも同じように食事をしているのかもしれない。食べおわったら、なにげなく事務所にもどり仕事を続ける。落ち着いて効率よく仕事に取り組むのはそれからである。
  一昔前まではこんなことは考えられなかった。日本の生活水準も次第に向上し、水洗トイレが多くなり都会では100%水洗トイレである。昔、トイレは、「ご不浄」と呼ばれたくらい汚いところであった。すくなくとも、現在40歳台より年上の人には、トイレで食べ物を食べたり、飲んだりすることは考えられない筈である。いまや考え方は、全く変わってしまったのだ。 この会社の個室の中の張り紙も、無用なのかもしれない。トイレもそれだけ清潔で飲食するにも問題にくらいきれいなところになったのである。その会社も清潔なトイレを誇りにしても良いのではないか。ゆっくり食べた後は、元気に効率良く働いてもらえば良い。空缶の放置は問題だが、なんとなく許してあげたい気もする。しかし、その社員にとって、会社でもっとも心を許せるところはトイレなのだ。

もしそうだとしたら、そのほうが問題かも知れない。


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