新連載  
   その8
  思わぬモノが輸出禁止  


                  −高いモノについた目盛り板の輸出−

  海外出張時の外為法に関する危ない例をもう一つ紹介します。次のような新聞報道を記憶しておられる方はあるだろう。東京都内にあった光学機器販売会社「サンビーム」が、輸出禁止製品である対戦車ロケット砲用の照準器に使用される目盛り板をイランの国営企業に輸出したとして外国為替及び外国貿易法違反の疑いで代表取締役が逮捕され、関係先を家宅捜索された。
 
この時問題となった目盛り板は、「レチクル」と言われるもので武器用にしか使用目的はなく、武器の一部として輸出が禁止されているものである。輸出先は、イラン工業省が株を所有する「イラン電子工業」といわれ、このレチクルはソ連製の対戦車ロケット砲「ロケットランチャーRPG−7」に使われるものであった。このロケット砲は、型式は古いが、イランやイラク等でまだ使用されているという。

  この違反事件に対して、最近判決がでた。光学機器販売会社の元役員二人に対して、東京地方裁判所から、懲役2年、執行猶予4年、罰金150万円の有罪判決である。判決理由は、「武器輸出三原則に反する違法な行為と知りつつ、利益を得るために安易に及んだ行為は悪質で、国際紛争の助長にもつながり、日本の国際的な信用を損ないかねない」とある。彼等が、有罪判決を受ける原因となった販売金額は、わずかに300万円あまりである。犯罪を覚悟してまで取引するような金額ではなかった。大変高い代償となったものである。
 レチクル自体は、ガラス板に目盛りを入れたものであり、それほど技術レベルの高いものとは思われず、イラン国内でも製造できないことはないといわれる。これらの取引を通して、さらに高度なレベルの製品を輸入するために、日本の業者と信頼関係を築くための前段階ではないかとの推定もある。一度違反をすると、その行為を理由に逆にゆすりの「ネタ」にされ、どんどんエスカレートして深みにはまる恐れもある。
 
 戦争に実際使用されることが容易にわかる武器や弾薬や更に原子力利用に関する原材料や資料は、通常我々が簡単に入手することはできない。もし、手に入れることができたとしてもこれを売買することは、大抵の日本人なら「犯罪」と意識はできる。しかし、ガラス板に目盛りが入った程度の、簡単な技術レベルの高くないように見えるものは、犯罪になるものと考える人は少ない。しかし、この様な簡単なものでも、輸出を禁止されているものは結構ある。
 
 
ゴルフのクラブや釣竿に使用されている炭素繊維がそのひとつである。円筒形に成形されたものや連続繊維となっているものが輸出してはいけない該当品になる。円筒状のものは、その形状がスポーツ用品のように特定の民生用途に設計されたものは問題とならないが、その目的のはっきりしていないものは、該当品として判断され輸出はできない恐れがあるのだ。企業内では、外為法もよく知られるようになり、最近問題になっていることもあって神経質になってきているが、商談する際のサンプルも、注意が必要なのである。
 
 
今回事件となったレチクルについては、当事者には違反行為とわかっていたものと思われる。しかし、我々が海外出張の際に「ついでに持って行って欲しい。」と頼まれることもありうる。会社の関係者では、問題はないと思われるが、空港で見知らぬ人に急に依頼されるものには、危険のあるものがあると聞く。知らなかったではすまされないのである。御用心!御用心!                  


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