控訴事実
平成16、17年の政治資金収支報告書への共謀による虚偽記載
陸山会は、平成16年の小沢一郎氏からの借入金4億円を収入として、土地取得代3億5千万円余を支出として、取得した土地を資産として、16年の収支報告書に記入すべきところを、小沢一郎氏と秘書が共謀し、17年の収支報告書に記入するという虚偽の記載をした。
備考
先の3人の秘書の東京地裁第一審では、検察の「虚偽記載の動機は、水谷建設からの裏金が発覚するのを恐れたため」とする主張を認めているが、小沢一郎の裁判では起訴した検察官の弁護士は「虚偽の動機よりも、小沢一郎と秘書との共謀が争点だ」として立証の対象から外している。
東京地裁の判断
■石川秘書が、16年の土地取得を17年の収支報告に記載したのは、4億円が違法な原資(水谷建設からの裏金)であることを前提としたものではなく、小沢一郎からの借入金として公表することで、マスメディア等から追及的な取材や批判的な報道を招く等、政治的に不利益を被る可能性を避けるためであった。
■16年の収支報告書の作成に当たって、4億円を、陸山会の小沢一郎からの借入金として計上せず、りそなからの担保貸付4億円のみを計上したこと、さらに支払った土地代金を支出として、取得した土地を資産として、16年ではなく17年の収支資報告書に記入したことは虚偽の記載にあたる。
■小沢一郎は、秘書寮建設のための土地を建設費を含めて4億円程度で取得することを了承し、売買契約が平成16年10月5日に締結され、その決済日が同月29日であることを認識していたと認められる。その上で、土地の取得や取得費の支出を平成16年分の収支報告書には計上せず、平成17年分の収支報告書に計上することとし、そのために、本件売買契約の内容を変更する等の本件土地公表の先送りをする方針についても、報告を受けて了承したものと認められる。
■小沢一郎は、4億円を担保にりそなから4億円を借り入れた目的は、4億円を収支報告書で対外的に公表しない簿外処理にするためであり、その簿外処理の方針について、秘書から報告を受け、了承していたと推認できる。
■4億円の借入金や土地代金の支払いについて、16年ではなく17年の収支報告書に計上することとし、土地の売買契約の内容を17年に変更する等の土地取得の公表を先送りする方針についても報告も受け、了承していたと推認できる。
■石川秘書は、土地の売買契約の決済を先送りするという方針のもとに、土地売買斡旋者である東洋アレックスと決済全体を遅らせる交渉をしたが、上手くいかず、登記手続きのみを翌17年にすることで合意した。
■しかし、石川秘書は陸山会にとってリスクはないと判断し、16年の収支報告書に記載すべき土地売買に関する一連の事項を記載しなかったことを小沢一郎に報告しなかったということは十分あり得る。
■一方、指定弁護士の16、17年の収支報告書における虚偽記入、記載すべき事項の不記載について、共謀共同正犯が成立するとの主張には相応の根拠があると言える。
■石川秘書が土地取得にかかわる一連の事項を16年の収支報告書に記入しなかったことで、虚偽記入による摘発があると考えていれば、叱責を覚悟しても小沢一郎に相談し、土地取引自体を先送りしたはずである。
従って、小沢一郎は取得土地の所有権の移転を17年に遅らせることができなかったことについて、石川秘書から報告を受けず、認識していなかった可能性がある。
■池田秘書が石川秘書から引きついだ通り、17年の収支報告書に16年に支払った代金を計上していることを報告した際、小沢一郎が「ああ、そうか」と言ったことは、17年の収支報告書に計上することの問題点を認識していなかったと考える余地がある。
■小沢一郎は、16年の収支報告書にりそな4億円が計上される代わりに、自ら貸し与えた4億円は借入金収入として計上する必要性は認識していなかった可能性がある。
■小沢一郎が秘書に、土地取引に関しての収支報告書の作成や提出を任せきりにしたということは芳しいことではないが、確かな記憶がないことはあり得る。
■小沢一郎が、土地取得公表の再送りや4億円の簿外処理について、さらに虚偽記入について具体的な謀議を認定する証拠がなくても、秘書から報告を受け、了承していたことは認定できる。しかし、小沢一郎が土地売買契約の決済日の変更ができなかったこと、取引の状況を16年ではなく17年の収支報告書に計上すべきでなかったことを認識していなかった可能性がある。4億円を借入金として収支報告書に収入計上する必要性も認識しなかった可能性もある。
これらの認識は、共謀共同正犯としての責任を問う上で必要であり、証明が十分でなく、無罪と言わざるを得ない。
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