読書日記
黄色い花の咲く丘
山本五十六の謎

リトルガリヴァー社
支刈誠也著

 私のサラリーマン時代の同僚が、定年後「連合艦隊長山本五十六の死」をめぐる小説「黄色い花の咲く丘」を発表した。
 自分と同じ出身地の新潟県長岡市が生んだ山本五十六が、「昭和18年ラバウルに向かう途中、米軍の戦闘機によって打ち落とされ、戦死した」という「史実」にかねがね疑問を持っていた著者が、姉の主人にあたる一回り以上年齢が離れている義理の兄とその幼友達と一緒に「オジン3人探偵団」を組んで、「海軍発表の史実にはない真実」に迫る一連の調査と推論のドキュメンタリー風、謎解き風小説である。
 
 著者が自分の居住地オーストラリアゴールドコーストに2人を迎えた折に、「パブア・ニューギニアで長岡弁を喋る現地人に出会い、訳を聞いたらアドミラル、海軍大将が教えてくれたという。これは五十六さんしかありえない。五十六さんはブーゲンビルで死んだということになっているが、本当は生きていたのではないか」という話が発端になって、3人の謎解きの旅が始まる。
 
 詳細な資料の蒐集と読み取りはもとより、私もかつて駐在したことがあるフイリッピン・オルモックでの懐かしい人物の登場も含め、ニューギニア・マダンからブーゲンビル島、西鎌倉、長岡、道玄坂、道修町、タリスマン、モノール島、・・・・と続く謎解きの展開はゆっくりではあるが、着実で、推理小説を読む時経験するように、事のなりゆきに戦慄が走ったり、前のページに戻って事実を確認したくなったり、とにかく読者に克明に読ませようとする構成力と文章力は水準以上である。タイトルの「黄色い花の咲く丘」の由来も納得がいく。
 
 海軍軍記物とりわけ山本五十六フアンには人気の著作になるにちがいない。ただ、もっと広く読んでもらうためにも、「本著は団塊の世代の定年サラリーマンの労作」という点を強調しておきたい。
 登場する「オジン探偵団」の一人は、紛れもなく著者であろう。年上の二人も含めて、何人かの登場人物の口を通して、著者は「サラリーマン時代、組織に迎合するあまり、すばしっこく生きたり、自分らしさを失ったりはしなかった」という自らの人生への自負の思いを語らしめている。しかし、サラリーマンとして燃焼し切れなかったことへのやるせなさ、無念さも感じ取れないではない。
 
謎解きが終わって、とりもなおさず「この本」を書き終えて、西に傾いた太陽の光線を受け、キラキラ光りながら舞い落ちる「日照雨」をみて、著者は「綺麗だ、俺たちの人生そのものだ」、「晴れのち雨ということか」という会話を年上の二人に交させている。
 「もう一花咲かせたい、次は何の謎解きをしようか」という著者の定年後人生にエールを送りたい。 

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