読書日記
日本能率協会 人材教育8号

日本語力で鍛える
「問題解決力」=「メタ認知能力」


実践 日本語ドリル
斉藤 孝 
宝島社
脳の中の人生
茂木健一郎
中央公論新社

 この読書日記でも、何回か紹介したことのある「日本版6シグマ」は、企業等の組織社会における問題解決活動である。テーマに関して「現状把握」、「課題設定」、「最適解決策の模索」、「実行計画の作成」、「実施と進捗管理」という一連のステップを累積的にたどり、問題を解決していく。ここでは、「具体的にこんな事実がある」、だから「何をどうする、何をどうしたらいいか」、その結果「何がどうなった」、さらに「何をどうしたらいいか」というように、各ステップの取り組み方や取り組んだ結果をひとつずつ具体的に分かりやすく簡潔に日本語で要約し、データ化することが基本になっている。問題解決のためには、最終的に行動が不可欠であり、「何のために、何をどう行動するか」を的確に表現できない限り、肝心の行動が曖昧になり、その結果、問題解決の道筋も曖昧になってしまうからである。
 
 この意味で「日本版6シグマ」における「問題解決力」は「日本語力」そのものである。しかし、現実的に「日本版6シグマ」で関わりを持つ世界にあって、この「日本語力」の弱さ、低さは憂慮すべき状況にある。海外の日系企業等で働く外国人スタッフの日本語力と比較しても、日本人社員の「何がどうなっている」、「何をどうする」ということを簡潔に分かりやすく表現する基本的な「要約力」、「構文力」の弱さ、低さが気になる。

 こうした問題意識を持つ中で、「実践!日本語ドリル」という本に出くわした。著者も「真の日本語力がつけば考える力が倍増する」として、「若い年齢層の日本語力が落ちているのが心配だと言われてきたが、年齢層に関わりなく、日本語力が落ちてきており、むしろ大人の日本語力が危うくなっている」と言い切っている。
 若い人の敬語の乱れやカタカナ語の氾濫よりも、日本人の「何がどうした」というようなことを端的に言える、主語と述語がはっきりしたねじれのない文章をつくったり、話をしたりする「基本構文力」や「要約力」が「ゆるゆるした感じ」になっていることが問題だと言うわけである。そして、「日本語力が身につく50題」を紹介し、日本語にしかない言葉の味わいよりも、とりあえ外国人が聞いてもはっきり何を言っているかがわかる、それぐらい内容のはっきりした言葉を話したり、書いたりできるということを目指したいとしている。

 「脳の中の人生」では、「対象の中に没入するのではなく、外部の視点から客観的に眺める能力」としての、脳の働きの中でもっとも大切なもののひとつであるいう「メタ認知」について紹介されている。全体的に難解であるが、「私流国語入試問題必勝法」の項は、先の「日本語力」との関連で興味深い。
 入試国語には「この文章の趣旨は何か」という問題がよくあるが、ここでは文章を読み、その特質を明確に掴み、表現する力が求められており、「メタ認知」の能力が問われているのだという。問題解決の場面の中で、問題を内部から見るのではなく、外に立って客観視することで、今まで気が付かなかったことに目を開き、新しい解決法を見出すという知性の働かせ方は、やはり「メタ認知」の能力が問われているわけである。そのためには、結局「何がどうなっている」、「何をどうする」というようなことを的確に、簡潔に表現できるようにするための「日本語力」のドリルが有効であるということになるのではないだろうか。

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