読書日記

野口英世の生き方に
おける
段取り力

野口英世の生き方
ちくま新書
星 亮一
段取り力
筑摩書房
斉藤 孝    

 著者の斉藤孝は「できる人はどこがちがうのか」(ちくま書房)で、「まねる力」、「段取り力」、「コメント力」が社会で生き抜いていくために必要な力だとしている。「段取り力」は、最近一冊の本として出版されたが、冒頭に「私たちの間にはそれほど大きな才能や能力の差はない。ただ段取りのいい人と悪い人がいるだけだ。何かに失敗した時、自分には才能がないとか能力がないとか言いがちだが、才能や育ち、環境のせいにすると改善のしようがないから、努力もしない。だが、段取りが悪かったから上手くいかないんだと考えると対処法が違ってくる。これが重要なポイントだと」ある。
 そこで段取り力とはどういうもので、どうやったら獲得できるかについて述べているが、結局は自分が得意なことに関しては段取りがいいもので、自分の中にある段取り力に気がつくことが大切だということが本題になっている。「自分にとって、テーマは何か、中心となるコンセプトや考え方、概念は何か」といった最終ビジョンを明確にすると段取りが見えてくるという指摘は説得力がある。なるほど、最終ビジョンの解決につながる、新しい価値を生みだすところにエネルギーを注ぐようにするのが段取りの基本でもあると理解することができる。

 段取り力について、こうした理解にたどり着いたとき、先日読み終えたばかりの「野口英世の生き方」を読み返してみたい気持ちになった。野口英世が千円札に登場することになって以来、私の出身県である福島は沸きに沸いている。著者の星亮一はあらためて野口英世の会津から東京、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカに至る足跡をたどり、「英世の生き方」から我々現代人は何を学ぶべきかを問い直している。
 英世は幼児期に左手にやけど負い、そのハンディをバネに医学の道を志し、「志を得ざれば、再びこの地を踏まず」として故郷会津を後にした。友人や師の善意に支えられ、医師の免許をとり、「医者として起った以上、恐れ多いことだが、天皇陛下の脈を拝し奉る世界的な医学者に絶対なってみせる」と大言壮語し、やがてアメリカに渡り、梅毒スピロヘータの発見やエクアドルでの黄熱病原菌の発見で、四度までノーベル賞候補にのぼる業績を上げるに至った。英世は学歴も門閥もなかったが、負けられないという強い闘争心で世界に羽ばたき、その名を不撓のものにしたが、それは野心、名誉心、精励、奮闘の賜であった。金銭には無頓着、借金は生涯常習、他人の迷惑を顧みないずうずしさもきわだっていた。自らのビジョンを実現するために利用できるモノは何でも利用したのであった。目標を見据えた以上は「あの東洋のモンキーはいつ寝るんだ」と迷惑がられた程不眠不休で研究に没頭もした。それは英世ならではの生き方における「段取り力」そのものではなかったろうか。

著者は英世から何を学かという問いかけに「英世を見習えば、どんなことでもできる。そして、それぞれの道で成功する」ということにしているという。さらに「東洋の小国日本が世界の大国に仲間入りできたのも、英世のように猪突猛進に頑張る精神があったからだ。戦後廃墟の中から立ち上がったのも何万、何十万という英世がいたからではないか」と結んでいる。

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