読書日記

「企業の強さを何で見るか」
 
目先の収益に引きずられない
 水面下の企業努力への視点こそ大事

日本能率協会
人材教育 平成15年12月号


能力構築競争
 中公新書
 藤本隆宏 
企業遺伝子
 PHP新書
 野口吉昭

 私の最近のもっぱらの関心事は、自ら体系化した日本版6シグマの実践を通して、日本企業の経営革新のあり方を模索していくことにある。この背景には、1990年代に入って日本企業、中でも製造業の「もはや欧米に学ぶものなし」という、これまでの強気論が一変し、「日本型経営モデルはもはや世界に通用しない」という悲観論が長く蔓延していることに対して、日本企業がめざすべき競争力強化の視点を共有し、是非建設的な一石を投じたいという思いがあるからである。

 「能力構築競争」の著者(東大藤本教授)は、日本の企業なかでも製造業に視点をあて、「過度な悲観論は処方箋を誤る。しかし日本の製造業は大丈夫と無条件に主張するつもりはない。日本の製造業が強いか弱いかではなく、世界に通用する強い製造業があるとすれば、それはどんな企業で、その競争力の特徴は何かを見極めることが大切である」という趣旨の問題提起を行っている。
 さらに、「収益力と競争力を混同してはいけない。財務業績や株価の短期動向に引きずられた競争力に目が行き勝ちであるが、その背後にある企業競争力は必ずしも収益性とはイコールでない」と言い切って、競争力を顧客に見える価格、納期、ブランドなどの「表の競争力」と顧客からは見えない開発力、生産性、歩留まりなどの「裏の競争力」に分け、この「裏の競争力」で勝つために企業が水面下で組織を上げて愚直に蓄積してきた競争力こそが、企業の強さを語る論点でなければならないとしている。
 そして、著者は企業がこの裏の競争力で愚直に競うことを「能力構築競争」と呼び、特に日本の自動車産業は「能力構築競争」に鍛えられて強くなったとして、とりわけトヨタ自動車の生産・開発システムの強さを「ものづくりの組織能力」という概念で説明している。

 ここで特筆したいことは、この「組織能力」は、企業が持つ独特の経営資源や知識の蓄積、あるいは従業員の行動を律する常軌的な規範や慣行のトータルであり、長年にわたってしぶとさを武器に培ってきたものであり、それは革命的なものではなく、地道な進化のプロセスから生まれたものであるという指摘である。この自動車産業の競争力の本質である「組織能力構築競争力」という観点からこそ、自信喪失に陥っている日本企業の再生に向け、明確な指針を読み取ることができるように思われる。

 「企業遺伝子」では、著者は組織能力構築競争に相応する「3つの企業遺伝子」という概念を紹介している。企業は単発ホームランをだすのではなく、連続してヒットを出し続けるために戦略を越えたあるものをマネジメントしなければならないはない、そのあるものこそ「企業遺伝子」であり、それは「理念、目標重視のビジョン遺伝子」、「戦略とアクションプラン重視のスキル遺伝子」、「社員の行動規範重視のスタイル遺伝子」であるとしている。そして、「トヨタとかホンダを知れば知るほど企業には遺伝子の存在感が大きいことがわかる。トヨタはホンダに対する危機意識のもと、トップから現場まで問題意識、当事者意識が染み渡っている。遺伝子マネジメントを知り尽くしている企業の典型だ」と結んでいる。


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