読書日記

若者が抱く
日本企業社会への不安に
どう応えるか

人材教育 平成15年9月号


会社はこれからどうなるのか

平凡社
東大教授 岩井克人 

仕事のなかの曖昧な不安 
揺れる若年の現在

中央公論新社
東大助教授 玄田有史


 株価は一万円台に近づいているが、実質経済の回復はほど遠いというのが巷間の評価である。「会社はこれからどうなるか」で、経済学者の著者は「企業の業績不振、忍び寄るリストラの中、サラリーマンは現在働いている会社がこれからどうなるのか、学生は自分たちが将来働くことになる会社はこれからどうなるのか、大いなる不安を抱いているはずだ」として、21世紀会社論を展開している。

 現在の日本経済の低迷状態は、従来の「日本型会社会社システム」がアメリカ主導型の「資本主義のグローバル化」、「IT革命」、「金融革命」という三つの局面でミスマッチを起こしているからであるとして、著者は日本のサラリーマンや学生の不安は、「会社は株主のものというアメリカ的な株主主権論の現実的な優位性の前に、従業員の利害を重視する日本型会社システムが敗北し、もはやこの世から消えてしまう運命にあるのではないか」ということに対する不安であるという。
 しかし、大半の紙面は「会社を株主のものとみなす株主論は、決してグローバル標準になりえない」ということを専門の会社法の研究に基づいて論証することに割かれている。ただ、21世紀の資本主義においては、価値を産み出す人間の知識や能力を求めて、おカネは少しでも有利な投資先を求めて動き回らざるを得ないようになり、おカネの会社に対する供給者である株主の力は、会社のなかのバランス・オブ・パワーにおいて軽くなっていくという。そうしたポスト資本主義時代の会社のあり方やそのなかでの従業員としての働き方についての著者の提案は説得力がある。

「仕事のなかの曖昧な不安」は、日本型会社システムがポスト資本主義時代への対応に苦しみ、ミスマッチを繰り返す中で、中高年層従業員があるいはそ以上に若年層の従業員が抱え込まざるを得ない深刻な失業の問題、働くことへの不安の問題を考える上で実証的なヒントを与えてくれる著書である。

 この本では「若年」は十代から三十代前半までとしているが、著者は若年の雇用の現状を危惧する声は中高年についてのものに比べてはるかに少ないことを憂慮している。それは中高年の場合の多くが会社都合による非自発的失業であることに対して、若年の場合の多くが自発的失業であるという理由からであろう。しかし、なぜ若者が仕事を辞めていくのか、その本質的な理由をさかのぼって考えてみる必要がある。
 著者は「若者からやりがいを感じられる仕事、誇りや満足を感じることができる仕事に出会えるチャンスが失われつつある。そのことが会社を辞めることを決断させている」として、余裕のなくなった企業の側に原因を求めている。さらに、こうした昨今の日本の若者が働くなかでの曖昧な不安の問題をデータに基づく客観的なデータからその本質をとらえ、「ではどうするか」という問いかけに対しても「頑張るな、自分のボスになれ、希少価値のある人間になれ、信頼できる友人を持て」と経済学の教えるコツを伝授している。これはとりもなおさず、日本の経済がポスト資本主義時代にどう対応していくのかという問いかけに対する答えでもあろう。

 日本経済がこのまま没落してしまっていいのか。それは、日本の会社がいかにあるべきか、若者は会社の中でいかに働くべきか、あるいは日本の社会がリスクをとって自ら会社をおこす気概を持った若者をいかに輩出させていくかにかかっている。この二つの著書から、日本の会社や社会のポスト資本主義時代における課題を読み取ることができる。


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