読書日記

 日本産業の
再生への道を探る

−コモディティ化という難関をどう乗り越えるか−

日本能率協会
人材教育 平成15年5月号  


不死鳥の日本経済
東洋経済新報社
リチャード・カッツ 

大丈夫か 日本の産業競争力
プレジデント社
馬場錬成

非連続の時代
新潮社
出井伸之


 4月に入って日経平均株価は8千円台を割り、バブル崩壊後最低を記録した。「不死鳥の日本経済」を読むと、以前「腐りゆく日本というシステム」という本を出し、「日本の経済成長率は5年間で2%もいけばいい方だ」と主張していた著者が、今度は「日本は10年後には再生する」と予測している。「日本には世界的レベルの生産性を誇る産業があると同時に、極めて非効率的な産業が存在し、働いている人数は後者における方が圧倒的に多い。もし、IT革命によって、こうした企業の生産性がグローバル・スタンダードにまで向上すれば、年率3%以上の持続的成長が可能である。しかし抵抗する力も強く、10年はかかるであろう」としている。そして日本のすべて企業が、ソニーや東芝のような経営の変革に成功すれば、日本は今でも年率5%から6%の成長を続けられるとも述べている。

 「大丈夫か 日本の産業競争力」では、著者は「日本は今、産業競争力が復活するかどうか重大な局面に立たされている」として、「第一に、ITの技術革新導入によって、これまでの現場の生産効率を圧倒的なレベルにまで飛躍させる。第二に、より高度で専門性の高い技術で競争力をつけるために、大学や研究機関、産学連携から生まれる第四次産業が興隆する社会をつくる。第三に知的財産権の権利化によってビジネスを産み出す社会をつくる」という3つの提言を行っている。

 日本の企業経営変革の先頭を切るソニーの出井会長は「非連続の時代」で、現在はデジタル・IT革命の波が顕著になり、アナログからデジタル、ネットワーク、知識社会へと変化は加速し、今は連続から非連続への移行の時だとしている。そしてこの非連続の時代を、企業価値という視点から「供給過剰により、ハードのみならずソフト商品まで単価がどんどん下がる」といういわゆる「コモディティ化現象による脅威の時代」であると位置づけしている。
ただ、ソニーにはコモディテイ化の波から逃げずに真っ向から勝負するという「ソニー戦略」があるという。この戦略から、先の著書でいう「日本産業の再生の道」につながると思われる「3つのキーワード」を読み取ることができる。
第一は複雑な機能を持つ商品をある設計思想に基づいて独立性の高い単位に分解し、それを組み合わせて低コストで完成品をつくりあげるという「モジュール化」である。第二はこのモジュール化を実現する手段として、「いいとこどりしあう企業間連携」というべき「ソフトアライアンス」である。第三はそうした経済価値の追求に加えて、「長期的な視点から企業価値を追求する」という概念である。出井会長はこれを「ソニーであることの証」であるとして「Qualia」というキーワードで「ソニー戦略」を締めくくっている。


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