日本版6シグマ
トップダウン的運営

 QCサークル活動で示された
日本企業の現場のボトムアップ力

 QCサークル活動は、その成立過程からしてもボトムアップである。最初にQC手法を学習した製造部門の組長や班長クラスは、その使い方を作業員全員に指導した。
 QCサークル大会に参加して、自分たちも同じようにやってみたいと言い出したのは、作業者たちであった。問題を発見し、原因を追究し、解決した。新入社員に未熟さが見つかれば丁寧に指導し、作業のしにくいところがあれば改善を提案し、作業指導書を改定させた。技術部門の問題を発見すれば、上司を通して、改善提案もどんどん進めた。
 現場の作業者が「QCの7つ道具」をマスターし、この知識を生かし、自分たちの業務を自分たちの手で改善することに喜びを感じていたのである。欧米では、改善に関する仕事は技術者の仕事とされてきたが、日本では作業者の仕事であった。日本企業のQCサークル活動を見たジュラン博士は、「仕事の内容やレベルの高さに驚かされた」と専門誌に談話を発表したほどである。


現場のボトムアップ力に権限を委譲する
経営トップ主導の「日本版6シグマ」

 しかし、現在は従来と変わってきている。QC活動の主役であった製造ラインでは、自動化や機械化が進み、作業者に頼る部分は非常に少なくなっている。ここで登場したのが、経緯トップ主導の「6シグマ」である。
 「6シグマ」は、あらためて「顧客の声:VOC」の本質を探り、顧客の声に対応できず発生している無駄な「コスト、機会損失:COPQ」を極小にするために、「6シグマ課題:SSP」に取り組む、全社的な問題解決活動である。経営トップの「6シグマ方針」のもと、全業務部門が「CTQ:内部要因」を絞り込み、それぞれに業務革新に取り組む活動である。
 

 経営トップは、各部門の「6シグマ課題」とその最適アプローチ計画の作成から実行までフォローすると同時に、QCサークル活動で実績のある現場のボトム力に「6シグマ」の運営の権限を委ねる、すなわち「Empowerment」する。これが「日本版6シグマ」のトップダウン的運営のすべてある。


経営目標に直結した
6シグマ課題
 現場が、経営トップの「6シグマ方針」をよく理解し、「お客の声:VOC」の本質を探り、「内部要因:CTQ」を絞り込み、「6シグマ課題:SSP」を設定する。経営は、提案された「SSP」を承認し、最適アプローチ計画の作成から実行までフォローする責任を担う。
 例えば、「製品の占有率を2倍にし、利益目標を達成するために製造コストを10%削減する」というように「6シグマ目標」を決定するのは経営である。この目標を実現するために提案された現場からの「6シグマ課題:SSP」を承認するということは、「こうしたアプローチならコストを10%削減でき、販売目標、利益目標が実現できる」ということに確信を持つからである。
 10%削減できて実際に経営目標が達成できなければ、その責任は経営者にある。「本当に10%でよいのか、30%とか、コストを2分の1にしなければ達成できないことはないのか」を自問自答し、結論を出さなければならない。
 経営が承認した実施案で成果が出なければ、経営の責任である。この自覚が必要で大切である。報告を聞いて「それではやってみなさい」程度の認識ではなく、きっちり解決まで実施案をフォローすることが必要である。
 
日本的
トップダウン経営を探る
 欧米の経営は、トップダウンであるといわれる。経営スタッフが常に研究し、経営ポリシーを明確にしてトップダウンで下に下ろす。そのポリシーが成果を上げることができなければ、経営者交代である。
 しかし、日本の企業では、組織文化や伝統、習慣があり、そのまま実践することは難しい。「日本版6シグマ」は、これを考慮して、経営のトップダウン的決定で、従来のボトムアップ型QCサークルによる小集団活動を事務・管理部門から設計・研究部門にまで拡大し、全社的な問題解決活動として展開しようとするものである。
 経営の「6シグマ方針」を受けて、現場が「W型問題解決フロー」に沿って問題意識を共有化し、現状を調査し、「6シグマ課題」を設定し、最適アプローチ体制をつくる。各現の実行体制は経営者層(トップ)によって承認され、その実践は現場に全面的に任される。これが「日本版6シグマ」のトップダウン的運営のすべてある。


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