6シグマとベンチマーキング

「ベンチマーキングとは何か」
高梨智弘著

著者は、冒頭で直面する企業競争に打ち勝つためには、「合理化」や「リストラ」の次の手が必要としており、それは「日本的リエンジニアリング」としている。その背景は、いまや「変質の時代」であり、消費者ニーズが急激に変化しているからである。
現代の経営計画では、長期ではなく、短期に意味がある。効率よく分析し、すばやく経営戦略を策定し、どのようなニーズの変化にも対応しなければならない。「市場分析 → 経営戦略の策定 → 戦略の実行 」、このプロセスを最短距離と最小時間で完結することが成功の秘訣である。

経営者の心理状態
しかし、経営者自身の意識が「人員削減のレベル」を出ていない。経営者の心理として、既存の方法を捨てて、新しいシステムを創造することが必要と考えている。しかし、不安である。だから、何か成功の確信がほしい。「目標」「標準」「基準」などの経営行動の目安になるものができれば、自信を持って既存のシステムを捨てることが出きる。

ベンチマーキングとTQMとの関係
有限な経営資源を有効に活用する経営手法としてTQMがある。TQMは、「ムダ」「ムリ」「ムラ」を排除し、より効率的な業務に改善する方法である。この方法は、他社でもやるであろうし、継続的に実行したとしてもおのずと限界が来るとしている。理由は、環境が著しく変化し、既存のシステムでは解決できないからである。だから、他の方法をとらなければならない。
「顧客思考、適切な現状分析に基づいた経営管理、人の活性化、プロセスの改善などで性格付けられる継続的な経営管理手法がTQMであり、ベンチマーキングは、TQMを実行していく上で継続的な改善を保証するツールである。」とし、ベンチマーキングでパフォーマンスをブレークスルーし、持続的な効果を発揮させるためにTQMを使うことが効果的であるとしている。

リエンジニアリングとベンチマーキングの違い
リエンジニアリングは、現状を否定し抜本的な改革でありリストラより厳しく、合理化や人員削減に結びつき、マイナス思考である。そして、成功するという担保がない。ベンチマーキングは、現状の肯定であり、必ずしも人員削減に結びつかない上、経営者のマインドとしてプラス思考である。すでに成功の事例がある。経営者にとって、目標が定まりベストなものに近づこうとする誰でも持っている意欲を活用できる点でベンチマーキングが有効な手法である。

ベンチマーキングとは、(定義)
*企業の業務を劇的に改善できる本質的な経営手法
* 最高の業績を生み出す世界の企業のベストプラクティスを見つけ、企業業績を世界
  レベルの会社と比較し、測定し、自社の業績を継続的に改善するツールである。
* 業界内外を問わずベストなものと自社との比較を行うことにより、そのギャップを埋
  め、現状を改善する有効な方法論

ベンチマーキングの本質
ベストとの比較、改善、測定、モチベーション、経営プロセスの学習、共有化である。

業務プロセスのフレームワーク
業務プロセス
1 市場の顧客の理解
2 ビジョンと戦略策定
3 製品とサービスの設計
4 マーケティングと販売
5 製造業/サービス業における製品/サービスの製造/提供
6 顧客への請求とアフターサービス

経営プロセス
7 人的資源の開発と管理
8 情報の管理
9 財務資源と有形資源の管理
10 環境マネジメントプログラムの実行
11 外部関係の管理
12 改善と変革の管理

ベンチマーキング導入までのプロセス
フェイズ1 
 何をベンチマーキングするのか

第1ステージ
ベンチマーキングの対象を決定する。

問題の抽出。
重要成功要因の理解
ビジネスプロセスの理解
調査対象プロセスの優先順位付け
プロジェクトの範囲決定

第2ステージ 
プロジェクトの編成

企業協力の獲得
チームの選択
分析のフレームワークの策定

第3ステージ
バックグラウンド調査

GBP知識ベース(アーサーアンダーセンのナレッジベース)
その他の伝統的な情報ソース

フェイズ2
 現行プロセスの理解

第4ステージ
現行プロセスの分析と主要業績指標の決定
内部プロセスの分析
プロセスの性向度を測定する重要な業績指標の決定と収集

フェイズ3 
 ベストプラクティスの選択・契約・分析
第5ステージ 
ベンチマーキングの相手の選択・契約

選択のための基準の設定
候補企業の選別
設定した基準に基づいた候補企業の評価
ベンチマーキング対象企業のリクルート

第6ステージ
相手企業での資料収集

収集方法の選択
質問書とその項目のデザイン
回答者の選任
現場往査の準備
往査の実行

フェイズ4
 現在と将来のギャップ分析

第7ステージ 
比較した業績とプロセスの分析
業績評価基準を比較する
プロセス図を比較する
仕事内容を分析する
業績のギャップを分析する
将来の業績レベルを予想する
ベストプラクティスのベストを識別する
ベストな業績に合わせてそして凌ぐ

第8ステージ
結論を導く
どのベストプラクティスを採用するのかを決める
コミュニケーション

フェイズ5
 ベストプラクティスの適用と導入

第9ステージ
導入
導入計画
導入活動の開始
達成度をモニターし、改良する
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ベンチマーキングについて

高梨智弘著で「ベンチマーキングとは何か」1994年12月第1刷の他に「経営品質革命」1996年9月発行と「経営品質の真実」1998年9月発行が出版されています。これらの2冊もチェックしてみました。
「経営品質革命」には、「大競争を勝ち抜くベンチマーキング」という副題がついています。「経営品質の真実」の方は、日本企業を含めた50社について、65のベンチマーキングの例を中心に解説したものです。

「経営品質革命」―大競争を勝ち抜くベンチマーキング−では、戦後50年で大きなパラダイムシフトがあり、「高品質の商品を低価格で供給する」ことから、「顧客価値を生む商品を適切な価格で供給する」ことに変わっている。
そのためには、需要者が価値を認める商品を供給しなければならず、過去の成功体験を忘れて「業務改革」行うことが必要としている。アメリカは、これを行うために1987年国家品質改善条例を制定し、マルコムブルドリッジ国家品質賞を作った。さらに1992年にベンチマーキング賞を制定した。前者は、国家的なもので大統領から賞を受けるという栄誉がある。後者は、米国生産性品質センターが主催する。

1970年代、1980年代の低迷を回復するには、TQCとかTQMという漸進な改善では日本を追い越すころはできないとして、リエンジニアリングが必要とし、ベンチマーキングを手法として提案した。この動きが、モトローラ社の1981年品質5カ年計画を作成し、86年にこれを達成して、1988年の第1回マルコムボルドリッジ賞となり、1991年からの6シグマへと発展に結びつけた。

リエンジニアリングでは、現状をいったん否定してゼロベースからスタートする点で少しネガティブであるが、ベンチマーキングでは、ベストプラクティスに学ぶという点から現状を肯定した上で、前向きであり、成功事例があるために安心して取り組むことができる。(具体的な目に見える担保がある)
ベンチマーキングでは、採用する効果として、経営変革を加速できる、現状打破のプロセスを明確にできる、実行へのコンセンサスを得やすいなどを上げている。ただ、日本企業での採用については、同業者では、ベンチマーキングの対象企業をつかめない(契約できない)、情報交換の場や情報公開についての習慣になれていないなどの欠点も上げている。

ベンチマーキングの手順については、前回記したとおりですが、各ステージで行うことは、日本版6シグマの「VOC」、「COPQ」、「CTQ」が順番は違うものの当てはまります。ベンチマーキングプロジェクトの編成も「SSP」の相当するものです。グループ編成でも、メンバーの中に「ファシリテイター」(調整者)として役員クラスを加えることを提案しています。これは、6シグマにおけるマスターブラックベルトに相当する役割であると思われます。(トップダウンでないと業務が進まない)

「経営品質の真実」では、品質についての概念を述べています。ここでは、現在のメガコンペティションに対応するために経営全体の品質向上(Q)、コスト(C)、サイクルタイム(T)を取り上げています。
Qについては、いくら最高の技術を駆使して「最良品」を作っても、売れなければ「不良品」としています。サイクルタイムでは、提供するスピードのことを意味しています。これら全体を含めてマルコムボルドリッジ賞では、審査の際評価しています。第2章以下では、リーダーシップ、情報の共有化などの各論から例を示して解説を加えています。事例の最初には、10年かけて復活させたGEのウエルチ会長を取り上げています。大企業病を直すべくベストプラクティスに「人のやる気」をあげているのが面白い点です。

感想
QCやTQCのサークル発表会では、社内の他のグループで参考にできることがあると早速取り入れて、同じレベルかそれ以上のレベルに仕上げてしまうことには大変得意なことでした。また、毎回、社外のサークル発表会を聞きに出かけることは、新しい手法や考え方に関するよいヒントをたくさん得ることができる良い機会でありました。もちろん作業者レベルの出席者では、企業秘密に相当することも少なく、同時に現在のように企業秘密と言ったことについて余り厳しくはなかったこともあり、サークル大会終了後や後日お互いに質問をして自分たちの活動に取り入れていました。

「ベンチマーキング」という言葉はなかったものの、すでに30年ほど前に、まさにQCサークル活動を通して、「ベンチマーキング」の一部を取り入れており、自分たちのグループのレベルアップに努めていたのです。中には、企業間でQCサークル同士の交流会なども開催していたグループもありました。ただ同業者のQCサークルについては、深く質問しないなどの紳士協定がありましたので、情報を交換するのは同業者ではなく似たような活動をしている他の業界のグループを選んで活動していました。

ただ、ベンチマーキングには、自社よりも良いものが具体的に見つかれば、取り組みやすい利点がある。「他社で成功しているからわれわれも取り入れてみたい」といえば、経営者にもわかりやすく、簡単に許可を与えやすい利点があるようです。それだけ、簡単に取り入れやすい、誰にでもできそうなものがベンチマーキングでしょう。ベンチマーキングは、具体的な実例を目標とすることができるために比較的運用しやすいものです。

ベンチマーキングで行われる「自社にとっての重要な課題を見極める」ことや「バックグラウンドの調査」もW型問題解決フローに使われていることです。「日本版6シグマ」は、自分たちで議論しながらVOCやCOPQから、自分たちでベンチマーキングに相当する目標を見つけ出し、SSPとして設定し、問題解決をする手法なのです。
「日本版6シグマ」には、VOCやCOPQから本質に迫る点や自分たちで議論し、深く考える点では、初期の段階では社外コンサルタントなど第三者の後押しと訓練が必要です。VOCだけでなく、人の意見に素直に耳を傾け、意見を良く聞き、文章にまとめる習慣を付ける点では、難しさはあるものの社員の教育には効果があります。定着し、効果が出るまでトップマネジメント層にじっくり待ってもらえるかどうかがポイントです。

「日本版6シグマ」は、アメリカにおける歴史が示すように、TQC,TQMを超えて、さらにベンチマーキングを超え、日本の風土にマッチするように改善された完成度の高い手法です。
 もう1冊の事例では、GEの例のように数値にならないリーダーシップをベストプラクティスに上げているところが面白い。日本の企業であれば、ベストプラクティスと入ってもこの様なものは取り上げないであろうと思われます。ここに取り上げているこれらの「例」は大変広範囲にわたっており、ベストプラクティスの考え方に関しては大変参考になります。日本の風土からすれば、ベストプラクティスの対象企業は、なかなか契約することが難しそうですが、この本に載っているテーマと内容をベストプラクティスの対象企業とレベルと考えて「本気になって」ベンチマーキングを行うだけでも相当レベルは上げられそうです。

しかし、どの経営管理手法も同じですが、定着させるには、全員の意識改革と強力な推進力が必要であり、ベンチマーキングという題目だけでは、長続きしないでしょう。O社でもすでにこれを取り上げたことがあると聞きましたが、抜本的な改革に結び付けられなかったものと思います。あれこれ手をつけず、「日本版6シグマ」を定着するまでサポートを続けながら進めるのが最も経済的で効果のある方法と思います。
この点で、先日のように折に触れて、ベンチマーキングの例題や勧め方を話題にしながら、「日本版6シグマ」は、ベンチマーキングを超えた管理手法であることを説明して推進することが大切のようです。.


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