TQCからベンチマーキング
そして6シグマへの流れ

 現代の経営計画では、長期にではなく、短期に関心が行っている。競争環境を効率よく分析し、すばやく経営戦略を策定し、いかなるニーズにもスピーディに対応できるようにする。「市場分析 → 経営戦略の策定 → 戦略の実行」、このプロセスを最短時間で最適に完結することが成功への道としている。
 しかし、多くの経営者は、新しい「システム」を導入することには不安が大きく、成功の確信をほしがっている。何か、経営行動の目安になる成功事例としての「ベンチマーキング」があれば、確信を持って既存のシステムに決別できるという。 
 高梨智弘著に「ベンチマーキングとは何か」の他に「経営品質革命」と「経営品質の真実」がある。「経営品質革命」には、「大競争を勝ち抜くベンチマーキング」という副題がついている。「経営品質の真実」は、日本企業を含めた50社について、65の「ベンチマーキング」の例を中心に解説したものである。


日本企業の製品に勝つための
ベンチマーキング
 高梨智弘著「経営品質の真実」によると、「ムダ、ムリ、ムラ」を排除し、業務をより効率的に改善するため、経営が目標とする「品質・コスト・時間」すなわち「Q,C,T)を実現するツールとして「ベンチマーキング」を位置づけている。
 「ベンチマーキング」は、顧客の声重視、人材の活性化、業務プロセスの効率化等、他社の最高の成功事例をもとに具体的な目標を設定し、実現することをねらいとしている。
 つまり、「ベンチマーキング」は、最高の業績を生み出している世界の企業の成功例「ベストプラクティス」に学ぶ「業務改革手法」であった。

 アメリカでは、1970から80年代の低迷期、これまでの「TQC」では日本企業の製品品質に勝つことができない、過去の成功体験を忘れて「業務改革」行うことが必要だとして、「ベンチマーキング手法」が提案されたのである。
 1987年には「国家品質改善条例」が制定され、マルコムブルドリッジ国家品質賞、ベンチマーキング賞が作られた。前者は、国家的なもので大統領から賞を受ける栄誉がある。後者は、米国生産性品質センターが主催するものであった。

ベンチマーキングとTQC
 「マルコムボルドリッジ国家品質賞」では、製品の品質「Q」および「Q]を提供するスピード「T」を審査の最重要項目としている。
 モトローラ社は1981年、「品質5カ年計画」を作成し、86年にこれを達成し、1988年の「第1回マルコムボルドリッジ賞」受賞となり、1991年からの「6シグマ」への発展に結びつけた。 
 その後、「大企業病を直すには、人のやる気が重要である」として、社員の意識と行動を改革するための「People Out」プログラム、無駄なコスト、機会損失を極小にする業務革新めの「Work Out」プログラムを両輪とするGE社の「6シグマ」が「ベストプラクテイス」として紹介されることになった。
 
主なベンチマーキング項目
経営プロセス
@人的資源の開発と管理
A情報の管理
B財務資源と有形資源の管理
C環境マネジメントプログラムの実行
D外部関係の管理
E改善と変革の管理

業務プロセス
@市場の顧客の理解
Aビジョンと戦略策定
B製品とサービスの設計
Cマーケティングと販売
D製造業、サービス業における製品・サービスの製
 造・提供
E顧客への請求とアフターサービス

ベンチマーキング導入プロセス
第1ステージ
ベンチマーキングの対象の決定
@問題の抽出。
A重要成功要因の理解
Bビジネスプロセスの理解
C調査対象プロセスの優先順位付け
Dプロジェクトの範囲決定

第2ステージ 
プロジェクトチームの編成
@協力企業の獲得
Aチームの編成
B分析フレームワークの策定

第3ステージ
バックグラウンドの調査
@GBP知識ベース
 アーサーアンダーセンのナレッジベース
Aその他の伝統的な情報ソース

第4ステージ
@現行プロセスの分析と主要業績指標の決定
A内部プロセスの分析
 プロセスの成功度を測定する重要な業績指標の決定
 と収集

第5ステージ 
ベンチマーキングの相手の選択・契約
@選択のための基準の設定
A候補企業の選別
B設定した基準に基づいた候補企業の評価
Cベンチマーキング対象企業のリクルート

第6ステージ
相手企業からの資料収集
@収集方法の選択
A質問書とその項目のデザイン
B回答者の選任
C現場往査の準備
D往査の実行

第7ステージ 
比較した業績とプロセスの分析
@業績評価基準を比較する
Aプロセス図を比較する
B仕事内容を分析する
C業績のギャップを分析する
D将来の業績レベルを予想する
Eベストプラクティスのベストを識別する
Fベストな業績に合わせてそして凌ぐ

第8ステージ
結論を導く
どのベストプラクティスを採用するのかを決める
コミュニケーション

第9ステージ
導入
@導入計画
A導入活動の開始
B達成度をモニターし、改良する


感想(加藤文男)

QCサークル活動での
ベンチマーキング
 QCやTQCのサークル発表会では、社内の他のグループで参考にできることがあると早速取り入れて、同じレベルかそれ以上のレベルに仕上げてしまう事例を参考にした。
 また、社外のサークル発表会に参加することは、新しい手法や考え方に関するヒントをたくさん得ることができる良い機会であった。
 作業者レベルでは、企業秘密に相当することも少なく、現在のように企業秘密と言ったことについて余り厳しくはなかったこともあり、サークル大会終了後や後日、お互いに情報交換をし、自分たちの活動に取り入れていました。
 「ベンチマーキング」という言葉はなかったものの、すでに30年ほど前に、QCサークル活動を通して、「ベンチマーキング」を取り入れ、自分たちのグループのレベルアップに努めていたと言える。企業間でQCサークル同士の交流会もあったが、同業者間では、深く質問しないなどの紳士協定があり、同業者ではなく似たような活動をしている他の業界のグループを選んでの交流が一般的であった。

日本版6シグマも
ベンチマーキングでさらなる発展を!
 自社よりも良いもの見つけ、「他社で成功している。我々も取り入れてみたい」として、他社のベストプラクティスを目標として設定する。これがベンチマーキングである。
 アメリカのベンチマーキングは、単に物まねではなく、「VOC」や「CTQ」について議論し、課題を発想し、解決を図る組織的な問題解決力が求められるとして、GE社のリーダーシップや社員のやる気をベストプラクティスとする「6シグマ」へと発展していった。
 「日本版6シグマ」は、現場のボトムアップ力を前提としており、特に「BSTプログラム」を武器に「VOC」や「CTQ」について本質に迫る議論をし、課題を発想する「KJ法的な情報処理力」を重視している。
 初期の段階では、社外コンサルタントなど第三者の後押しと訓練が必要であるが、ベンチマーキングの取り込みも重視し、「日本版6シグマ」をアメリカの「TQC」から「ベンチナーキング」そして「6シグマ」へという流れにならって、日本の企業組織風土にマッチした完成度の高い経営管理手法として実のあるものに発展させていきたいと思う。


back