目標管理
ボトム力アップに限界

 目標管理は、会社の方針や目標を踏まえ、社員が自らの課題を設定し、その解決に主体的に取り組むというもので、社員の仕事のやりがいや生きがいにつながると評価されてきた。
 しかし、現実には上司の押し付けがあったり、評価に公平さが欠けたり、そのために、肝心の目標へのこだわりが甘くなったりすることがある。このことが、目標管理に期待した現場のボトムアップ力向上を限定的なものにしてしまっている。
 右肩上がりの成長が続いた時代では、目標管理の目標設定の仕方や、その成果の評価が曖昧であっても、社員が主体的にがんばる姿勢のもと、企業業績は上昇し続けた。だから目標管理も運営自体に曖昧さ、いい加減さであっても、非常に効果的なツールであると過大評価されてしまったフシがある。


目標管理は
部下と上司の妥協の産物

 アメリカの企業では、新しく担当者を採用する際は、職務分掌が明確であり、それに対する給与も決まっている。採用条件以外の仕事を指示されても、安請け合いはしない。上司が当初の職務以外の仕事をさせた場合には、次の契約や昇給交渉条件の対象となる。
 しかし、日本の企業では、担当別に職務分掌が詳細に決まっているようでも、実施の段階では曖昧な部分が多い。ある程度の能力があって、人が良いとか、気が弱いというような人には、仕事が押し付けられる風土がある。
 業務の内容や区分が曖昧で、組織の中でお互いカバーしながら仕事をしていくという風土は、日本的な良さ、強さではあるが、目標管理の本来的な効力を曖昧にしている要因にもなっている。


目標はノルマになることも
 目標管理では、目標項目と目標値の設定を巡って、部下と上司の間で静かで厳しい戦いが繰り広げられる。
 部下の立場からすると、「目標はできるだけ楽に達成したいし、達成できず悪い評価を受けたくない。」という意識が働く。目標が達成されない場合を考慮して、「その目標の達成がいかに困難であるか、他部署の協力を受けることが、どれだけ大変なことであるか」を説明し、予防線を張ろうとする。
 上司は、「そんなことはない。君の能力からすれば、もっと高い目標を設定できる筈である。」と部下の能力を勘案し、顔色を見ながら、動機付けする。それぞれ持っている情報を出して攻めぎあい、結局のところ目標項目と目標値は、上司と部下の妥協の産物として設定される。
 ところで、個性が強く、圧力で管理するタイプの上司の場合は、部下の主体性を無視した、一方的な押しつけになり、目標はノルマとなってしまう。押せ押せムードで実績を上げてきた営業部門にはこのパターンの上司が多い。反対に目標管理に関心が薄く、形だけやれば良いと考えている上司もいる。定型的な処理業務中心の職場では、このパターンに陥りやすい。

難しい目標は敬遠される
 各個人の業務には、質的に評価されるものと、量的に評価されるものが混在する。個人の目標は、これらを分類し、それぞれに判定基準を明確に設定するのが理想である。
 現実には、数値で定量的に評価できる目標が第一に選ばれる易い。次に、数値に表せないが達成したことが明確にわかる目標が選ばれやすい。全社的に見て、他の部門から期待や要望の高い目標もあるが、そうしたものはどうしても敬遠されがちである。
 その結果、項目や目標値は少しづつ、安易な方向に移行する傾向がある。最終的には、本来的に重要な目標項目や目標値から、ずいぶんずれたものが設定され、一つ一つの目標が達成されていても、部門全体や全社的なレベルで見た場合の成果が十分でなかったりする結果にもなってしまう。

評価も曖昧だ
 目標管理の評価項目には、達成度、困難度、努力度、貢献度などがあるが、努力度、貢献度は定量化が難しい。夜遅くまで残業をしてがんばっていることは努力の姿として見られるが、残業時間の多いことが、必ずしも貢献度に結び付くものではない。
 しかし、実際には目に見える形で表現され、アピールされたものが評価に結び付けられやすく、その内容は、あまり問われない。確かに、こうした目に見える形に対しては辛い評価はつけにくい。これに部下から上司への「ごますり」が加わる。休日のゴルフの付き合いや引越しの手伝いなど、私的なものまで評価に影響を及ぼすことが普通である。目標管理の評価は、上司が少々甘い評価をしても実際には、問題は生じないことが多い。
 公正公平な評価は強調されるが、評価方法が確立されていないため、実際より評価を高く付けてしまう寛大化傾向や部下にあまり差をつけたがらない中心化傾向が現れることも多い。
 部下も自分自身を低く評価して、賞与や更に昇進まで影響してはたまらないと考えるのが普通だ。自己評価の段階では、どうしても甘い評価になってしまう。自分を売り込むために高い評価つまり、甘い評価になってしまうのが普通である。
 
 評価には昇進や昇格のための評価があり、各職能別に必要とする専門能力や見識、人望、使命感、責任感、信頼感、器量等に加えて、理解力、判断力、決断力、企画力、実行力、洞察力等が評価される。本来、目標管理は、こうした昇進や昇格とは、別のタイミングと視点で行わなければならないが、現実には、同時進行になっているケースが多い。その場合、個人の能力向上目標と目標管理の目標が混同して進められやすい。


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