目標管理
自主性、やる気重視だが!
6シグマとの根本的違い

 「現代の経営」の著者ドラッカーは、行動科学のマズローの「欲求五段階説」を背景に、特に「自我の欲求」、「自己実現の欲求」をもとに。人間性重視の経営管理手法「目標管理:(Management by Results)」を提唱した。

マズローの欲求五段階
@生理的欲求
 衣、食、住など人間が生きていく上での最低限の
 欲求
2安全の欲求
 危険や災害等から自分を守ろうとする欲求
3社会的欲求
 社会生活に同化し、認められたいという欲求
4自我の欲求
 自分の能力を伸ばし社会的に認められたいとい
 う欲求
5自己実現の欲求
 自己を何らかの形で実現したいという欲求

 戦後の日本企業は社員を家族に見立てた「従業員共同体」を築いたが、ドラッカーは工場の歯車となって疎外感を味わっている産業労働者が、自らの存在意義を見いだせる「産業人社会」を築くべきであると訴え、「目標管理」を提唱した。
 「目標管理」は、特に難しい手法や考え方でなかったため日本においても比較的速く、広く普及した。しかし、各企業がそれぞれに自由なやり方で導入したことから、その実施方法や成果には、企業間で相当バラツキがあるように思われる。



目標の設定、実行、評価
すべて自主管理
 最初のステップは目標の設定である。自主性を尊重し、自分で決定することを基本としている。自分の能力は各個人自身が一番知っている。その能力に合わせて目標レベルを決定する。社員の高度な欲求である自己実現の欲求を刺激し、企業の目標と各個人の目標を一致させようとしたのである。
 上司は、会社の経営方針、自部門の方針や目標を明示する。部下に対しては、一方的に指図するのではなく、やる気と創意工夫を引出すための動機付けをし、周辺の条件作りをする。

 次のステップは、実行の自主管理である。各個人が自分の目標をどう達成するかは、自主的に管理する。目標達成の手段や方法は、致命的な問題がない限り、たとえ間違っていても自分で考え自分で行動することが要求される。期限までに達成する実行計画も自分で作成する。上司は余分な干渉を避け、組織にまたがる問題が発生したような場合、側面から支援すだけである。

 第三ステップは評価である。結果は自分で評価する。自分で設定した目標に対して、自分で責任を持って行動した結果について、自分自身で納得のゆく評価をする。これを毎期繰り返す。一般的な目標管理では年間計画を作成する。しかし、1年間では期間が長すぎるために、普通は半年毎に中間チェックを取り入れている。

管理部門や間接部門の
マネジメントツールとして効果を発揮

 「目標管理」は、会社の経営方針や計画を組織の各部門にブレークダウンし、社員に徹底し、実現に向けて、社員の自主性を重視した「マネジメントツール」として効果を発揮した。特に、管理部門や間接部門の経営管理手法として、社員の自主的な目標の設定と達成を支援し、能力向上に結びつけた点において、製造部門の「QCサークル活動」と並んで、その成果は十分大きかった。

目標管理は評価が難しい
 
しかし、その実施について問題がないわけではない。部下をまとめる上司の負担も大変である。数人の部下ならまだ何とかなるが、10名以上の部下がいる場合に、一人一人と面談し、部下の自己評価内容をもとに、上司としての見解や指導の方向を双方に納得のいくまで話し合い、書類に仕上げなければならない。
 達成度、困難度、努力度、貢献度などが評価されるが、中でも努力度、貢献度は定量化が難しい。自己評価の段階では、どうしても甘くなってしまう。自分自身にあまり厳しい結果を出すと、その期間何をしていたのか疑われてしまう。逆に、甘くしすぎると目標が最初から甘かったのではないかと思われる。客観的で適正な評価基準を作ることがたいへん難しい。個人差も大きい。自己主張の強い人の場合、実際の成果とは別に評価が良くなる傾向が出てくる。謙虚な人の評価は、実績を上げているにもかかわらず悪くなってしまう傾向にある。どうしても不公平感が免れない。

 他方、上司の評価は甘くなる傾向が出てくる。日常から、部下の仕事を良く見ているようで見れていない場合が多い。部下の人数が少なければ、毎日目を配り、問題が発生しそうな状況を把握し、支援ができるが、数が多い場合は、目が届かなくなる。しかし、評価をしなければならない。従って甘くなる。
 面談も、人数が少なければ日常から顔を突き合わせているだけに、形式的になり、改まって面談しても効果が少ない。部下が多いと適切な助言ができず、結局のところ、各人任せになってしまい、評価も自己評価に近いところに収まってしまうことになる。
 目標管理は、わかりやすく、導入しやすいために、多くの企業が実施しているが、現実的には評価が難しく、自由裁量の範囲が広いため、自主性尊重の真の成果を十分引き出している企業ばかりではない。

6シグマと目標管理に違い
 「6シグマ」は、アメリカ企業が1980年代に世界市場を席巻した日本製品の高信頼性を超えることを目標とし、百万回に3.4回程度のエラーしか発生しない業務品質の改善を目標として取り組んだ問題解決活動である。
 この「6ッシグマ」には「基本的な指導原理として、「VOC;Voice of Customer:顧客の声の重視」、「CTQ:Critical To Quality:業務品質に関わる内部要因の解決」、「COPQ:Cost of Poor Quality:不良、エラー、欠陥等によって発生するコストの極小化」の3つがある。
 「6シグマ」は、経営の方針や目標の実現のために、全業務部門が「VOC」から「CTQ]を絞り込み、「6シグマ課題」を設定し、その解決に取り組む、経緯トップと現場が一体となった全社的な問題解決活動である。課題の設定から解決、評価まで社員の自主性にゆだねられた目標管理とは相当異なっている。

 「6シグマ」は、顧客の声に応え、グローバルな競争に勝利するために、トップ主導で、確かな目標と課題に主体的に挑戦し、実績を上げ、自己実現を図る「企業人」をつくることがすべてである。
 「6シグマ」に関わる社員は、「6シグマキャスト」として経営のライン上に位置づけられ、「チャンピオン、マスターブラックベルト、ブラックベルト、グリーンベルト」で構成される。特に、「マスターブラックベルト」、「ブラックベルト」は専任で「6シグマ」取り組む。
 それぞれの任務、役割に応じて、「6シグマツール」の教育訓練が徹底的に実施される。「やる気重視、自主性重視」の考え方を中心に、経営トップが先頭に立っての社員教育に多大なお金と時間がかけられている。
 各部門が「6シグマ」で取り組む課題「6シグマ課題」は、各部門が担う、経営目標の実現に直結した部門の課題であり、評価は成果に応じて金額換算され、マネジャー以上についてはボーナス評価の40%に反映する方法がとられている例も見られる。
 このように「目標管理」と「6シグマ」を比較してみると、「6シグマ」は「組織的な経営システム」としての完成度が高い。社員の自主性に任された部分の多い、自由裁量の範囲の多い「目標管理」と異なり、「6シグマ」は、システムをしっかりと構築し、社員の意識改革と問題解決力の強化のための教育訓練に充分なコストと時間をかけ、成果にはお金や処遇で応えるという点で、経営主導の「トップダウン型意思決定と現場やる気とボトムアップ力を一体化させた経営活動ということができる。 


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