その114
ミヤンマー便り (8)
日系企業のMARS社訪問

 今回の研修ミッション旅行で訪問した日系企業を紹介したい。今回は欧米の経済制裁下という政治的に難しい背景もあり、製造業の訪問は日系企業MARS社1社のみであった。
 MARS International Co. Ltd.社は、ミャンマー農業省の一機関、住友商事株式会社、アース製薬株式会社の3社が出資する合弁会社でヤンゴン郊外にある。1997年創業の家庭用殺虫剤、蚊取り線香を製造する会社である。経済状況の逼迫するミャンマーにあって、外貨を稼ぎ成功している日系企業の一つである。原田氏が社長(Managing Director)で従業員は、146名、訪問したときは、2種類の渦巻状の蚊取り線香を製造中であった。

製造工程は混合、練り、押し出し、抜き、乾燥、そして、梱包の6工程で実にシンプルである。混合工程(Mixing)で、原料の植物の粉に有効成分と着色剤を加えて混合する。使われる地域によって蚊取り線香にも効果の強い、弱いがあり、有効成分の量を調整し、着色する。
日本の蚊取り線香は、たいてい緑色であるが国によっては赤(レンガ゙色)も使用する。この粉末に水を加え機械に入れて撹拌し、ローラーで練る。練り終わった原料は、押し出し機に送られ、圧力を加えて、板の上に押し出す。練った粘土状の原料が板の上に並ぶ。並んだ板の上から渦巻状の歯型(金型)を押し付けて抜く。この工程までくると普通我々が日常目にする渦巻状の蚊取り線香になる。板にのせた渦巻状の蚊取り線香は、50段ほど重ねて台車にのせ、乾燥室に運び、乾燥する。これで製品は出来上がりである。完成した蚊取り線香は10本ほどを小さな箱に入れるものや数百本単位で段ボール箱に入れものなど分けて梱包する。

MARS社の操業開始は、1997年であるが、2001年から輸出も開始した。輸出額比率は12%、33%、そして、2003年は43%と順調に伸ばしている。主要な輸出国は、韓国、シンガポール、欧州である。日本へは規格が厳しく輸出していない。海外市場ではインドネシア、マレーシアや中国のメーカーと輸出競争になっている。輸出した際の海外からの入金も、実際に手に入れるまで大変である。入金の書類が届いたことを確認し、申請書類を作成する。そのたびに市内の銀行に行く。輸出してもその現金を実際に引き出すまで何度もヤンゴン市内の銀行に足を運ばなければならない。経理の担当者はほとんど毎日市内に足を運ぶという。事務員が全従業員に比較して多いように思われるがこの辺にも理由がありそうである。

ミャンマー国内の販売競争は結構厳しいが、MARS社は市場占有率を22〜23%に維持している。国内の商売はすべてキャッシュでの取引である。入金するとお金はすべて自社の金庫に保管する。ミャンマーではお金を銀行に一度入れてしまうと簡単には引き出せない。銀行から毎週引き出せるのは10万チャット以下に制限される。自社の金庫に入れて確保しておかないと収入がいくらあっても従業員へ給与が支払えなくなる。現在のミャンマーの銀行は現金を預けるところではないのである。

ミャンマーで救われるのは、勤勉で素直な国民性である。従業員の定着率が良く、労務管理の問題はMARS社にはない。その背景には、MARS社の日常の努力がある。この工場周辺には小中学校が3校あり、これらの学校へ奨学金を支給している。家が貧しいために学校へ行けない子供たちがたくさんいるのでMARS社が奨学金を負担している。また、ハンディキャップのある従業員も2名採用しており、社会貢献には相当気を使っている。このおかげで周辺から勤勉で優秀な従業員を採用できている。また従業員もMARS社で働くことにプライドを持っているので安易に辞める社員もいない。

工場前の道路も長い間修理されず、停電もたびたびある。このようにミャンマーの生産基盤(インフラ)は良いとはいえない。国内需要向け優先で外資系貿易業者の輸出も認められにくくなっている。外貨の不足は慢性的であり、輸出をして外貨を稼いでもその使用に規制がかかるので欧米の企業も引き上げる傾向にある。

このように輸入原料の入手から現金の回収まで、多くの苦労をしてミャンマーで工場を経営するメリットが本当にあるのかどうか本当のところはわからないという。ただ現時点の経済状態が最悪であり、これ以上悪くなることは考えられない。欧米の経済制裁が解け、この危機を脱することができれば大きな展望が開ける。ここミャンマーでは安価で勤勉な労働力が豊富に確保できる。大きな潜在市場もある。これに期待をかけて将来の発展に夢をかけて経営をしているのがMARS社の実態のようだ。

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