その111
ミヤンマー便り (5)
  少年にボールペンを上げたこと

 東南アジアのたいていの国では観光地に乞食をみかける。ミャンマーも例外ではなかった。マンダレー市の有名な観光名所であるウーペイン橋(U-Pein Bridge)は、幅が2メートル足らずの木造の橋である。その途中にマンドリンを持った目の悪い男性とその母親らしい女性が立ちふさがっていた。日本人と見ると「上を向いて歩こう」やビルマの竪琴にでてくる「庭の千草」などを演奏し、目の悪いことを示し、手を出しお金を要求する。

寺院には、小さな子供をつれた女性もいる。子供をネタに同情を買いお金をねだるのである。幼い子供を知人から借りて汚い身なりにして、この子供に食べ物をとせがむのもいるという。どこまで信じてよいか戸惑う。これは中国のホテルの前で見られたものと同じである。

観光バスが寺院などに停車すると6〜7歳くらいの子供たちがキャンデーとかペンとか言って寄ってくる。その中には、「マネー」と直接お金を要求するものもいる。日本人観光客はあまり与えないようだが、欧米人はよくキャンデーを持参し与えている。

乞食ではないが、絵葉書を10枚セロテープでとめて、1000チャット(約100円)で買ってくれという物売りもいる。直接お金を求めるのではなく、販売をするので何とか買ってあげたいと思う。20枚で1000チャットという者もいる。いくら100円と安くても同じような絵葉書なのでたくさんは要らない。「もう買ったよ」と証拠を見せながら断るしかない。寺院では木彫りの彫刻を持ってきて買ってくれとせがむ。確かに日本の金額にすれば300円や500円だから高くはないが、一人から買うと「こいつは金持ちだ」と思うのか大勢寄ってきて振り払うのに困る。寺院の訪問を終えてバスに乗ってもバスが走り出すまで窓の下から声を掛けてくる。ただ中国の物売りのように変なしつっこさはない。

ポケットにメモ用のペンをなくしたときの予備に、キーホルダー付きのボールペンを持っていた。旅も終わりに近づき、スペアのボールペンも不要になったので僧院の近くで一人だけ我々を見ている6〜7才の男の子がいたのであげた。不思議そうにしていたのでキャップをとって使い方を教えてあげるとうれしそうにうなずいた。バスが出発する直前に彼よりやや年齢の大きな子供が寄ってきて彼に与えたペンを眺めていた。「大きい子供に巻き上げられなければよいが」と余計なことを考えた。

子供たちにキャンデーやボールペンを与えることがよいのかどうか今でも疑問に思っている。自立心をなくすからやめたほうがよいという意見もある。戦後日本の子供もアメリカ人からチョコレートやガムをもらっていた。私は田舎にいて外国人に接する機会はなかったのでもらった経験はない。昔、チョコレートやガムを米国進駐軍にもらった子供たちに悪い影響を与えたのだろうか。戦後の日本人は現在のミャンマーのような貧しさをバネにして経済発展に結びつけたような気もする。子供たちにこのような形でキャンデーやボールペンをあげることが彼らにとって悪い影響を与えるのかそうではないのか今もわからない。

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