新連載

 その3   クリーンでないクリーンルーム


−金をかけても活かされていない設備―

 ICやLSIの半導体工場、印刷用の版下製造工程などの製造工場では、クリーンルームが設置されている。クリーンルームは品質を保つためになくてはならないものとなっている。クリーンルームとは、超微粒子のゴミなどを除去して、極めて高い清浄度を保った部屋のことで、最先端技術や医薬品、食料品分やでも使用されるようになった。
 クリーンルームは、1立方メートル当たりの不純物の数量でランクが決められており、その清浄度の度合いにより使い分けられている。例えば、LSI工場では、クラス4からクラス7のレベルを適用するなどである。そのクリーン度が悪いと良品は極端に少なくなる。単なるホコリだけでなく、作業員が話す時に飛び散る唾液でさえ問題になる。それどころか海岸に近いところでは、その工場の大気中に含まれる塩分さえ品質に影響を与えていることが問題になり、それに適したクリーンルームが設置されるようになっている例さえある。
 ところがこのようにクリーンな筈のクリーンルームが名前ばかりでほとんどその目的を果たしていないものが沢山ある。
 ある東南アジアの精密部品工場を訪問した時である。品質管理のために、"クリーンルームの中で組立作業をさせています。"とのふれ込みであった。そのクリーンルームへ案内すると言う。入室の前に真っ白な作業服に着替えさせられて、白い帽子をかぶる。履き物も履き返える。入り口では強制的に風でダストを吹き飛ばし、その空気をさらに強制的に吸い取る構造になっている。
  しかし、そのクリーンルームに案内されて驚いた。非常にクリーン度が要求される筈のクリーンルーム内がその機能を果たしていないのである。作業者は、マスクもせずペチャクチャ話をしながら作業をしている。マスクをしているものもいるが鼻の方だけで口の方はカバーされていない。話をするときに煩わしいかららしい。話す時に出る唾液が製造中の部品の飛び散っていることは疑う余地がない。さらにそのクリーンルーム内に事務所で使用されているものと同じティシュペーパーの箱が置いてある。作業台の横には、軍手が置かれたままである。日本で土木建築作業に使用されているものと同じだ。これが使用されているようだ。クリーンルームとは形ばかりでその機能を果たしていないことは明白である。

  クリーンルームには、その必要性は理解されているのだが、設備だけが先行し実質の伴っていないものが結構ある。高いクリーン度が要求されるところでは、クリーンルーム内へ見学者は絶対に入れない。ガラス窓を隔てて離れたところから見せられるだけである。どうしても必要な場合には、下着まですべて脱がされて着替えて入る事を許可されるところさえある。データを記録にはパソコンを使用し画面で見て、紙は使用しない。どうしても必要なら、特殊なダストの少ない用紙を準備する。軍手などとんでもない話で特殊な手袋を使用する。これくらい神経を使うのがクリーンルームなのである。

 工場を案内した担当者は、私を特別扱いしたつもりで工場内へ案内しくれたのであるがこれも間違いである。良い品質を維持しようとすればVIPといえども中に入れてはならない。この種の工場を見学する時には、よく注意をして中まで案内されなくとも、作業場においてある工具や事務用品などの整理整頓の具合を注意深く観察することにより、その目的や機能が十分あるかも判断できる。クリーンルームとは名ばかりで機能を果たしていないところが多いのである。品質問題の発生原因はこんなところにある事が多いのである。
 製造されている製品や部品に応じて、その清浄度が決められ、クリーンルームが設備される。クリーンルームは、毎日データ採られ、管理されていなければならない。清浄度が高すぎても設備費や管理費用が高くなってコストアップの要因となる。十分注意したいものである。


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