その103
バタム島工業団地訪問記 (1)

シンガポールの東南20kmにあるバタム島は、シンガポールからフェリーで約45分にあり、観光開発にも力を入れているが工業開発が中心である。バタム島というが、バタム、レンパン、ガランという3つの大きな島を中心に6つの巨大な橋梁と約1000kmの舗装道路で結んだバレランエリアとして理解したほうがわかりやすい。最も大きなバタム島の東部には、幅45m、長さ4000mの滑走路を備えたハン・ナディム国際空港がある。2つの港にコンテナターミナルがあり、現在建設中の国際ターミナルを加えるとリゾート用のフェリーターミナルもいれて6つになる。バタム島全体がFTZ(フリートレードゾーン)であり、これらのコンテナターミナルはシンガポールのコンテナヤードと近いために輸出品の積み出しに大きなメリットを持っている。

このバタム島に現在、工業団地が14箇所あり、すでに300社以上の企業が進出しており、更に8社が進出を予定している。この中で日系企業は、3分の1にあたる100社を超えている。その中心は、電子、電気関連企業、精密機械製造、及びその部品を製造する企業である。このエリアで操業する主な日系企業には、朝日コーポレーション、セイコーエプソン、沖電線、昭和電工、松下電池、京セラなどがある。日系企業以外には、シンガポール企業、シンガポールとの合弁企業、マレーシア企業、マレーシアとの合弁企業、米国企業が大きな比率をしめている。

これらの工業団地は、従業員の寮をはじめとする住居エリア、郵便局や銀行などのタウンセンター、飲食店、スーパーマーケットのあるショッピングセンター、そして、テニスコート、プールなどの運動施設を備えた総合的なコミュニティから形成されている。日本のように地下鉄や鉄道はないが、働きやすい工場、快適な生活環境、余暇を楽しめる最初から十分に設計されたコミュニティでこの中で十分生活も楽しめる職住接近の町として設計されている。

これらの工業団地のメリットは、低賃金の労働力を安定して供給されることにある。2003年に制定された最低賃金は、バタム島も首都ジャカルタも同じで、作業者の人件費(福利厚生費込み)の平均は日本円換算で約12,000円であり、中国華南地域とほぼ同じレベルにある。ただ、最近の最低賃金の上昇は、20〜30%と他の国に比較して大きいことが気になるところである。

作業者については、企業が直接採用する方法と派遣会社を経由する方法がある。派遣会社からの採用では、受注額が増えたときの残業対応や激減したときの解雇など調整が柔軟に行えるメリットがある。直接採用は、コストも安く、経費として管理が可能であるが、受注額が減少した際に解雇が難しいという欠点があり、それぞれ特質がある。直接採用に当たっては、契約期間を1〜2年として、解雇しやすい体制や退職金の増額を抑える方法も検討されている。

最近、技術系の短期大学も建設され、近い将来、技術者を現地で採用できる体制もでき上がる。管理職は、シンガポールで採用し、日系企業の体質に慣れたシンガポール人を配置することも可能である。労働力の確保については、条件はあるが安定していると言えよう。

ここでの通関は、24時間体制で行われており、また、海外送金も自由であるなど為替管理やリスク回避の面でも中国ほどの不便さはない。インドネシアでありながら、シンガポールドルが流通するなども面白い。日本企業の海外進出先として現在中国が注目されているが、インドネシアのバタム島も検討の対象に加えても良いだろう。

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