その102
中国にまけない位
労働の質が問われる時代

「インドネシア人は、言われたことしかやらない、単純労働にしか向いていない」と以前に聞いたことがある。我々日本人からすると、たいへん失礼な言い方に聞こえて信じられなかったものである。
しかし、今回日系のホテルのレストランで、そのサービスの実体を見て、なるほどその通りと思わざるを得なくなった。これがインドネシアの平均的レベルだとすると製造業においては、よほどうまく工場で訓練し、きっちり指導しないと世界で通用する品質を製造することは難しい。この実態を知らずに工場進出する企業は、実務上で相当困ることになるだろう。本当に良い企業を厳選して商品や部品を発注しないと、納期の面で苦労しそうである。こちらの言ったことを本当によく理解してくれただろうか、納期どおりにできるだろうか、品質は大丈夫だろうか。こんな心配が常時付きまといそうである。

日本からインドネシアへ海外生産をシフトし始めた当初は、確かにコストメリットがあった。製品を選べば、日本や台湾と比較してインドネシアでの生産のコストメリットは大きかった。しかし、現在メリットの比較では、中国やベトナムも対象となってきている。これからは、インドやミャンマーも対象になってくる。既に華南や上海、華北など中国各地との競争が厳しくなってきている。中国への進出はリスクが大きいと言われるが、各都市や村(鎮)は新しい資本の導入に対してたいへん柔軟に対応している。インドネシアの労働コストが安いといっても世界と比べるとそれほどではなくなっている。製品の品質も格段に良くなっている。中国企業では、不良品を製造する作業者は、すぐに解雇の対象になる。インドネシアも、レストランの従業員のように気が利かないと、コストも品質も、納期もすべての面で中国に負けてしまう。世界の情勢はそれほど甘くはない。このままでは、工場進出なども中国に取られてしまうのも当たり前である。企業から見れば、少しくらいの問題があっても、それを越えるメリットがあれば、インドネシアへの資本の投資も増え、撤退することはない。その投資が減少する兆しは、そのメリットが最近なくなりつつあるということかもしれない。

政府がインドネシアの労働者のことを最優先に考えて法律で規制するのは当然である。しかし、政府も要求する労働組合も世界の競争の厳しさの実体を良く知らないのではないかと思われる。その国の文化や習慣も大切である。しかし、外国の実体を知らなくては、外国資本の誘致もできない。このままでは、外国資本は逃げるばかりか、相当有利な条件を出さないと投資を期待することは相当に厳しいのではないか。日本の企業がインドネシアへ進出するに当たって、従来のフィージビリティスタディ(F/S)の情報だけでなく、もっと厳しい目で判断しなければならないと思う。現在のインドネシアは、もう一度F/Sをやり直さなければならないときがきている。

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