その100
インドネシア
不安定な労働事情が問題

ここ2年間のインドネシアへの外国資本の投資は、下表のように大きく減少している。それと同時に、日系企業も含めた生産拠点の撤退も出てきた。

外資を含めた直接投資推移                億ドル
2000年
2001年
2002年
投資金額
154 
90 
97

原因としては、@違法デモの頻発 A労働問題の深刻化 Bイラク戦争による対米輸出の減少があげられる。
景気の低迷で生産額が減り、製造企業はリストラをせざるを得ない状況に追い込まれている。しかし、労働法に縛られて余剰人員が出ても解雇はできない実態がある。全体的に、操業率低下とコストアップ傾向が続いている。更に、最近の中国企業の密輸品を含む安価な商品は、インドネシア商品の競争力を極度に低下させている。繊維産業では、工場閉鎖に追い込まれている企業が少なくないようだ。

一方、最低賃金の毎年の引き上げにより、労働集約的な産業では賃金の面でも国際競争力を失いつつある。従来インドネシアは、低コストの労働力をうたってきたが、JETROの最近の資料によれば、1999年から2002年までの毎年の賃上率は、それぞれ16.4%、23.8%、49.1%、38.6%である。毎年20%以上の賃上げでは競争力がなくなるのは当然である。日本でもかつて20%以上の賃上げの時もあったが、そのときは合理化による生産性の向上も大きかった。それでも、21世紀の現在、当時からの右肩上がりの賃上げが国際競争力をなくし、高賃金が問題になっている。これらの労働争議や賃上げは、インドネシアへ新しい工場進出を検討する投資家にはためらう原因となっている。

中国においては、勤勉で安価な労働力が内陸部より次から次へと供給され、あと数年は作業者の賃金は上げずにすむであろうと言われる。又、製造組み立て工程などで品質問題を起こせば、新しい作業者に替えられてしまうなど作業者も真剣に仕事をしない者は解雇になってしまう厳しい人事管理の現実もある。中国製品は、価格が安いだけでなく、品質も格段に良くなっている。このままではインドネシアの製品は、世界の市場で勝てなくなってしまう。

現在ソニーの生産撤退が話題になっている。ソニーの工場の撤退は、サプライチェーンマネジメント(SCM)を理由として発表している。しかし、本当のところは不明である。多分真相は発表しないであろうと思われる。労働争議はサプライチェーンマネジメントにも、悪い影響は避けられない。撤退の理由はSCMとなっているが、本質のところは、インドネシアの不安定な労働事情にあるのではないか。

また、日系のホテルでは、バリ島の爆破事件やイラク戦争、更に中国に始まったSARS問題で客室の稼働率は30%を割っているとさえ言われている。しかし、過剰な従業員を解雇できずに抱えたままである。

このソニーの生産撤退をはじめとした、外資系企業の生産拠点の移転による内外の投資の落ち込みは、アジア地域におけるインドネシアの相対的地位の低下をもたらしている。外国資本の投資促進政策で課税問題、通関手続き、関税などではメリットを持ちながら、国内問題で投資が減少している。これらが現在のインドネシアの大きな課題である。

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