その99
インドネシア
職業訓練学校訪問記 (3)

電車の中で今の日本の高校生を見ると、一部にはたいへんだらしなく見える者も少なくはない。これらの日本の若者には、この職業訓練学校(CEVEST)におけるきびきびした態度やひたむきなインドネシアの青年の姿をぜひ見せてやりたいものである。
今から40年ほど前は、田舎から働きに出てきた日本の青年も、当時はこれらのインドネシア青年のように「ひたむきに」仕事に取り組んできたのである。これらの「ひたむきさ」が現在の日本の製造業を支えてきたと言っても良い。現在、3Kを嫌って、格好のよい仕事を選び、それもフリーターとして仕事を点々とする姿を見るにつけ、日本の製造業の将来が少し心配になる。
海外に行く機会の多かった筆者も、これまでインドネシアの職業訓練学校のことは知らなかった。日本の訓練制度にも関心が薄かった。多分、多くの日本人にも、こうした制度の存在はあまり知られていないと思われる。ぜひ、ジャカルタにおける職業訓練学校の生徒の姿を紹介し、日本の多くの人にこの存在を知ってもらいたいと思う。
しかし、この制度はインドネシアにおいて有意義であり、喜ばれているものの日本における実務研修と技能研修は必ずしも良いところばかりではなさそうである。日本においての研修中は、1ヶ月5万円ほどが賃金として本人に支給される。無駄遣いをせずに3年間これらを積み立てることである程度のまとまった金額を得ることができる。インドネシアにおける作業者の1ヶ月の賃金は1万円ほどである。日本で受け取る1ヶ月5万円の研修手当ては、これらの賃金に比べると相当な金額になる。これらを貯金して持ち帰り、インドネシアにおいて商売をはじめることもできる。実際に成功しているものもある。多くは、日系企業をはじめ各種の製造業に就職し、数年で監督者や管理者になるものもいる。この人たちにとって、この日本への研修制度は大変な動機付けになり、インドネシアのために貢献することになっている。

ところが、日本において比較的楽に高い給料を得ることがわかるとインドネシアにおいて、低い収入でまじめに働くのがいやになる者もいるらしい。研修後に企業に勤めても長続きせず、それなりの立場に昇格できない者も出てくる。彼らは、日本における研修での収入を忘れはしない。彼らにとって大きな金額を比較的楽に稼げることを知り、結局は、商売も始めることなく、企業に勤め続けることもない。再び海外へ高い給与を求めて働きに出る者もあるそうだ。人間には、個性もばらつきもある。この制度を効果的に使える人とそうでない人が出てくるのはやむを得ないことかもしれない。

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