その97
インドネシア
職業訓練学校訪問記 (1)

事務所に案内されると少し離れた教室から、大勢が元気な声で話す声が聞こえる。今回の目的は、研修の様子を見せてもらうことである。
教室の大きさは、日本の小学校とあまり変わらない。40人ほどの若者が床に座って先生の発音する日本語を復唱している。何度も繰り返す。それを終えると2人づつペアーになって、同じ日本語の掛け合い練習が行われる。彼らは大きな声で、質問し合い、答えあっている。

我々の訪問のために、教室の代表が練習状況を再現してくれた。入校して10日ほどの生徒である。
A:これは、ボールペンです。
B:それは、何ですか。
A:これは、ボールペンです。
B:あれは、何ですか。
A:あれは、時計です。

入校して少し慣れてくると今度は、工具を借用することを想定した日本語の練習である。そして、次々と日本語のレベルを高めてゆく。
C:2班に行って、ドライバーを借りてきてください。
D:2班に行って、ドライバーを借りてきます。行ってまいります。

D:1班のCです。ドライバーを貸してください。

D:ただいま帰りました。2班からドライバーを借りてきました。
こんな具合である。

研修中の日本語のやり取りは、指示が出されるとそれを復唱し、「行ってまいります」、帰れば「ただいま帰りました」ときっちり大きな声で報告する。訪問した我々日本人にとっては、旧日本軍の軍隊を見るようで違和感がないわけではないが、その礼儀と規律正しさを日本の若者にももう一度学ばせたいような気がした。

生徒である彼らは、インドネシアの各地で選抜された20歳から27歳までの男性の若者たちである。体力と能力のテストで5倍の競争率を勝ち抜いてきているという。まだ慣れないために、日本語のイントネーションは少々違うが、大きな声での練習風景は、元気で真剣そのものである。全員が坊主頭で日本の高校野球チームのメンバーが集まっているようだ。坊主頭にする理由は、そのほうが神経を集中できるからだと言う。

朝5時起床、夜の10時消燈の全員合宿生活である。朝8時から夕方5時まで日本語、日本の風俗・習慣、体育、規律について約3ヶ月間の研修を受ける。宿舎を覗かせてもらったが、5mx6mほどの部屋に2段ベッドが5つ、一部屋10人の相部屋である。シャワー室(と言っても水道の蛇口がおいてあるだけ)とトイレが中央にあり、窓際には小さな机が一つ共用においてある。毎日摂氏30度を越える赤道直下のインドネシアであるが、教室も宿舎も冷房の設備はない。訪問した我々にはたいへんな暑さで「この暑さの中でよくがんばれるなあ」と思えたが、彼らは汗もかいていない。帰国した研修生によれば、日本の夏の暑さの方がじめじめして厳しいと言うから不思議である。
このようにして、3ヶ月を経過し、基本的な知識を学び、ほとんど全員が卒業し、日本の中小企業の実習に参加できる資格を得る。

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