その93
墓石も流れ作業でつくられる 

最近の日本の墓石は、その多くが北朝鮮、中国産であるという。ひょんな機会から墓石を加工する工場を見学することができた。場所は、福建省の省都の福州市である。台湾の台北の海峡を挟んだ対岸というとわかりやすいだろう。香港と上海の中間くらいに位置する地点にあり、飛行機でいずれからも1時間少々のところである。
花崗岩は、建築用の石材であるが、日本へは、そのほかに墓石として輸出されている。港も近くにあり、積み出し、輸送も便利である。最近日本経済の落ち込みで、花崗岩がタイルなど安い材料に置き換えられ、建築用資材の商売の方は低調のようである。墓石の方は、タイルに置き換えることはできないので、日本への輸出は以前と変わらずに順調のようである。

工場は、新しく造成された広大な工場団地の一角にある。周辺は、まだ草原で工場らしい建物は建っていない。100メートル四方ほどの土地に石材運搬用の広い道路を確保し、平屋の工場の建物がL字型に配置してある。道路を挟んだ工場の敷地いっぱいに墓石となる原石が積み置かれ、加工を待っている。工場の中には、日本の金型工場にあるようなクレーンが設置され、重量のある石が楽々と速く移動できるようになっている。工場の中は、通路を挟んで二つのラインが形成されており、それぞれのラインには、石を切断するカッターと順番に切断面を平らにするグラインダーが配置されていて、石材を切断する強烈な音が鳴り響いている。カッターやグラインダーの熱を冷やし、粉塵の舞い上がりを防止す水も大量に使えるよう設備されている。

製品は墓石だけではないが、図面どおりに、さまざまなな形が流れ作業で作られてゆく工程は複雑ではないが面白い。流れ作業と言っても、テレビの組立工場のような早い動きはないが、原石の切断から荒削り、そして研磨と工程は進む。最終段階の出口のところで、きれいに磨き上げられた黒光りする石材が完成する。最近は、研磨工程だけではなく、文字を刻むところまで作業場でできる。日本の業者から、ファックスで刻印する文字を送ってもらい、物故者名や建立者の名前まですべて中国国内で完成してしまうのである。同じ漢字文化圏であるから、正しい文字さえファックスしてもらえば困ることはない。漢字文化圏のメリットを十分に生かして仕事をしている。最近は通信事情も良くなり、文字の刻印の注文が増えているいう。従来のように、日本に輸送してから墓石に文字を刻むよりだいぶコストが安く上がるらしい。もちろん多くの墓石は、形が整えられただけで出荷される。

新しく墓石を発注する日本人も、命日とか、お彼岸とか、需要期に波はあるがその納期はそれほど急ぐものはない。納期によって、日本側の業者が、日本で彫刻するか、中国で彫刻するか日程調整をする。納期の短い場合には、日本に在庫してある墓石を日本で刻む。納期が十分ある場合には、中国の工場で文字を刻印してから出荷する。この方が、コストも安く利益も多く取れるという。
福州市には、このような石材工場がいくつかある。このような墓石の工場と流れ作業工程を知ってしまうと、死んでからも流れ作業で処理されるようで複雑な思いがする。故人は知る由もないが、墓石の発注者も、このような事実をあまり詳しく知らないほうが良いのかもしれない。

back