その89
     ロジスティクス拠点としても
        進展著しい深せん


シンガポールや香港の港は、夕方と翌朝では、その全景が相当違ってくる。夕方には大小たくさんの船舶が見られるが、翌朝になると青い港が相当大きくなっているように見えることがある。それだけ船舶が夜間に動いているのだ。夜間でも昼間と同じようにコンテナヤードは稼動しており、貨物の積みおろしが行われている。夜間のうちにコンテナの積み下ろしを終えて、多くの船舶は出港し、停泊している船が新しい船舶と入れ替わる。
大きな船舶では1日港に停泊すると100万円以上の経費がかかるという。一隻の積載量が非常に多いとはいえ、コスト競争の激しい現在、1日停泊する毎に100万円以上が消えてゆくことは見逃せない。船舶会社もすばやく貨物の積み下ろしできる港を中心とする航路に切り替える。そこからの運搬は小型船に任せる。こうしてハブ港としての機能は、自然にコストの安い港へ移ってゆく。

経済発展の激しい中国華南で生産された貨物の積み出しの中心は香港である。貨物は一度香港に運ばれ、ここから世界の各地へ積み出される。この華南の中心的な香港でも、最近貨物の積み出しの様子が変わりつつある。華南の発展にもかかわらず、輸出貨物の積み出しの量が減少しつつあるのだ。原因は、香港の隣にある深センにコンテナの取り扱いが取られているからである。昨年の深セン港の輸出貨物量は、前年比40%以上増加し、逆に、香港の積み出し量は1%減少した。
深センや東莞など大工場地帯と香港を結ぶ高速道路は、おびただしい数のトレーラーやトラックが通る。すべて深センや東莞で生産された製品や部品材料を香港へ運ぶ車であるが、これらの車は香港サイドの税関の前で通関のために立ち往生し、列をなしている。深センや東莞から香港まで、車で高速道路を使っても1時間から2時間を要する。これに通関の時間を加えると、その経済的なロスは相当大きい。税関の場所を通るたびに、この状態を早く手を打てばよいのにと思ったものである。

深センは、1980年の中国経済開放まで人口が8千人ほどの小さな漁村であったが、現在700万人の都市へと急成長した。1980年中国政府が経済特区として指定し、外国が投資し易い条件を整えた。これ以降深センでは、港湾の設備を徐々に整えてきた。そして、深セン港から世界各地へ直接積み出しできるようにした。その上、深セン港では、輸出通関の手続きを大幅に簡素化した。香港の全貨物取扱量に比較すれば深セン港の積み出しまだ小さい。まだ、深セン港に来る船舶の数も限られているので、この程度で済んでいるのであるが、深センへ寄る船舶の数が多くなれば、さらにこの傾向に輪をかけるであろう。

シンガポール港とマレーシアやインドネシアなど周辺の港の間でも同様な動きがある。かつて取り扱い貨物量の多かった横浜港は夜間の貨物の取り扱いを拒否したために多くの船舶輸送会社は、ハブ港としての機能を香港や韓国に移した。横浜港も昨年から夜間の積み下ろし作業ができるように変更したが、従来に戻すことは難しい。世界中で24時間営業は当たり前である。成田空港、関西空港、中部国際空港に関しては、建設費用の負担が問題になっている。ロジスティクスに関する研究は常に行われている。現在は国内問題でもめている場合ではない。日本を中心とするロジスティクスとして、どうすべきかを考える段階にきている。

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