加藤文男さんの著書紹介

海外調達の教訓集
−アジア時代のビジネス新常識−

挨拶に替えて

もし明日、海外調達の担当者に
 任命されたら

 本書を手にとられた読者が、突然、「海外調達を担当するように」と勤め先から通達されたらどうしますか? きっと、たいへん戸惑われることになるでしょう。
 海外調達とは、海外から製品や部品を仕入れることです。そして、アジアの時代が到来するにしたがって、これまでほぼ国内での仕入れに依存していた企業が、海外調達に踏み込まざるを得ないことが多くなっています。そして、あなたが「海外調達の担当者」に任命される日が、突然やって来るかもしれません。
  筆者に、その"任命事件"がおきたのは、今から14年程前。海外出張から帰国した翌日のことです。やはり突然、「海外調達の担当を担当するように」言い渡されました。
 それまでの担当は、海外営業。欧米各国を回って、映像機器や無線機器など電気機器のマーケッティングなどをしていました。営業では、製品をできるだけ高く、いかにたくさん販売するかを毎日考えていました。ところが海外調達では、少しでも安く購入しなければならず、しかも安定した品質のものを探し出してこなくてはなりません。少量でも必要なものは、納期どおりに購入しなければ、生産ラインが止まってしまうのです。
 扱う金額も大きく異なりました。販売担当していた商品は、1システム数百万円するものや数千万円、更に工事を含めると数億円のシステム商品でした。ところが海外調達では、高いものでも単価が数千円。中には数十円、数円という部品もあるのです。安くするために数銭単位で値引き交渉さえ必要になりました。扱う商品も単価も、従来の仕事と180度、転換し、天と地ほど大きく違うものになったのです。
  手探りで始まった海外調達活動。慣れないために順調とはいえませんでした。当時は、台湾やシンガポール、タイ、マレーシアが主な調達相手国・地域でしたが、こちらは比較的ハイテクの製品を扱っていたために、要求する仕様に合致する調達先がなかなか見つかりませんでした。適当と思われる調達先からサンプルを持ち帰っても、国内で品質保証をする部門がなかなかOKを出してくれないのです。ようやくOKを出してもらっても、その製品がすぐに生産中止などということもありました。
 また、安くて良い品質ができる工場の情報を入手して帰国しても、それが国内の仕入先に漏れて、先手を打たれ水泡に帰したことも二度や三度ではありませんでした。
  なぜうまくいかないのだろう?そのうち、何かおかしいかに気付き始めました。そして、この分野にわかりやすい手引書がないことを残念に思いました。また、他の企業の海外調達担当者も、同じような苦労をしていることがわかりました。
 本書は、こうした経験を踏まえて、海外調達の担当者として失敗した経験や苦労した話を、「教訓集と」としてまとめた初めての本です。筆者だけでなく、先輩や友人たちが海外調達をするに当たって、海外出張した折に経験した失敗談も入れてあります。このような失敗例を知っておけば、いろいろなケースで思い起こし、同じ失敗を繰り返さないで済みます。時代が違って個々の事例は変わってきても、コトの本質にあるテーマは普遍的なもの。未来に生かす知恵として、活用してください。また、本書の主人公は海外調達の実務だけではありません。とくにアジアを中心とした海外社会で、実際に活動するインターナショナル・パースン像こそが、本当の主人公だといえます。
  そうした意味で、モノつくりや製造現場ですでに知恵を見に付けられ、これから海外生産に取り組まれる方々や、商社勤務を目指す学生の方々、アジアから独自のグッズを購入される方々など、本書がお役に立つ場面は多いと思います。海外でのエピソード・コラムや豊富なイラストとともに、海外社会で生きる知恵を楽しんでください。
                                        2003年2月吉日

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