福島第一原発の危機管理

A2つの危機管理の視点について

福島原発事故を深刻なものにしている最大の問題は、冷却システム用の外部電源、非常用ディーゼルエンジンの破壊です。地震と津波の大きさが想定外であったとの一言で片づけられていますが、電源の修復、機器類のメンテに必要な部品の調達にも時間がかかるということになると、東電や国の原発に対する危機管理がもともといい加減なものだったという感じがぬぐいきれません。

さいたまアリーナに原発避難をしている双葉町の町会議長をしている友人に、「これまでの東電とのやり取りで、安全に対する危機管理の面で不信感を持ったことはなかったか」と質問をしてみました。有名人を呼んでの講演会や文化サークル、広報を通して「原発は安全」の神話に乗せられていたようで、「津波が想定外の規模だった」ということに納得しているようでした。

3月26日の朝日新聞の報道によれば、2006年に国会で「非常用電源が失われた場合にどういう事態がおきるか」がすでに質問されています。「他のプラントと融通しあう等の対応をする」という説明があったが、実際に適切な対策(部品の確保、保管等)が準備されていたとは思われません。

また2010年に保安院長は、炉心溶融はありうるとしつつも「そういうことはあり得ないだろうくらいまで安全設計をしている」として可能性を否定しています。また原子力安全委員長は07年の浜岡電発の訴訟で、原発内の非常用電源がすべてダウンすることを想定しないかと問われ、「そう考えると設計できなくなってしまう、わりきりが必要だ」と述べたとも報道されています。

「日本版6シグマ」は、品質やコストや安全にかかわる問題を、経営トップの強いリーダーシップのもとすべての部門、人間の問題としてとらえさせ、360度の角度から「状況分析」を行い、「課題」を設定し、解決し、結果として無駄なコストや機会損失を極小化していくという経営管理手法です。「日本版6シグマ」の視点から言えば、このたびの福島原発事故から、安全を際限なく追求していくために、2つの視点からの「状況分析」と「課題の解決」が不可欠であると考えます。
先ず、地震や津波に対する安全性を高めるために「安全設計」を極めるという視点です。しかし、このような視点からのアプローチは「安全神話」をつくるだけで限界があります。現実に、想定外の規模の地震や津波は起きたわけです。
従って、安全設計には限界があるという前提で、安全が損なわれた場合、発生する問題に速やかに確実に対応する手立てを極めるという視点が必要です。「緊急時対策」を極め、事故の拡大を極小化するというアプローチ方法です。今回の福島第一原発の事故拡大は、この「緊急時対策」についての備えがきわめて不十分だったことを物語っています。

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