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労働総合研究所
月刊誌
「企業と人材」

ビジネス研究所
 辻善之助氏との出会い

 私は大学卒業後、大阪に本社のある化学系企業に就職しました。教育部門に配属されたのを機に、京都に拠点のあったビジネス研究所主宰の「経営研究会」に参加し、所長の辻善之助氏に師事し、学生時代専攻した教育学、心理学に加えて、マクロ・ミクロ経済、財務、流通、統計、創造工学の実践的理論を学びました。
 
 また、研究所のメンバーとともに、文化人類学者の川喜多二郎先生(東京工大教授)のKJ法を企業組織社会での実用化を目的として、「Semi−Digital  Information Processing : 等価変換言語情報処理」をベースにした 「Semi−Exact Science」として、論理的かつ技法的に体系化するというテーマに取り組みました。また、このテーマを通して、京都学派(人文科学研究所)の先生諸氏から発想法、情報科学、野外科学の理論と実践を学び、企業社会におけるKJ法による「創造的組織づくり」を追求しました。
 
 その後、私は企業の中にあって、営業、開発、海外工場管理等の実務経験を経て、1983年東京転勤となりました。しかし、この間、日本企業をとりまく環境は大きく様変わりしました。
 拡大成長路線が長期に渡って継続し、多くの企業は高い業績を上げ続けました。これにともない、企業社会にあって「創造性の高い組織の追及」というテーマの位置づけは、大きく後退しました。一方我々の水先案内人的存在であった辻善之助氏がカナダに住まいを移すことになってしまいました。そこで、これまで付き合いのあった友人を中心に、東京地区における多業種交流会として「ベルヒュード研究会」を発足させ、これまでの関西地区での「経営研究会」の活動を継続させることにしました。

 ベルヒュード研究会は
Beautiful Human Dynamism in Business」 から命名したものです。ベルヒュード研究会では、原点に帰って、ダイナミックに生き生きと仕事ができる企業組織のあり方の研究を目指しました。1990年代、日本経済は高度成長路線の終焉、デフレ不況、IT革命の到来を経て、グローバルなニューエコノミー時代に入り、これまでの高度成長路線のもとに確立された「戦略立案や意志決定の仕方、組織の活性化や人材育成の仕方」はことごとく無力化してしまいました。研究会ではこうした時代認識のもと独自の「組織モデル論」と「問題解決技法」を両輪とした、グローバルに通用する「創造的な経営革新プログラム」の論理的、技術的体系化に取り組みました。

ジャック・ウエルチの
  「GE版6シグマ」との出会い

 こうした活動の中で、1998年ジャック・ウエルチの「GE版6シグマ」との出会いがありました。「6シグマ」は経営トップの強いリーダーシップのもと展開する全社レベルの重点施策に組織で取り組む問題解決活動です。
 ジャック・ウエルチは、「6シグマ」について、次のように述べています。「6シグマは事業運営の効率改善、生産性向上、コスト削減に関して、過去4半世紀における最大の経営革新の一つであり、これに勝るものはない。企業の競争力を高めるために非常にパワフルで、最大の効用は優秀なリーダーを育成する力にある」。私はこのジャック・ウエルチの発言に大いに触発されました。同時に、「GE版6シグマ」とベルヒュード研究会の活動のねらいと方法論との間に本質的に共通したものがあることを発見しました。

「日本版6シグマ」を
    目指すことになった経緯

 そこで「日本の企業に相応しい『6シグマ』の展開方法を研究する必要がある」と思い立ち、即座にこれまでの研究会の活動をベースに「日本版6シグマの体系化」に挑戦することにしました。
 その後、「日本版6シグマ」を展開するための「ツール」として、「People Outプログラム:人材育成と組織活性化」と「Work Outプログラム:業務課題の解決」からなる「BSTプログラム」(elhyud olution Technology Program)を体系化しました。
同時に、「ベルヒュード国際経営研究所」を立上げ、「日本版6シグマ」を指導、支援する活動に取り組むことになりました。さらに実践体験を踏まえ、「日本版6シグマ」の指導者を育成する目的で「ベルヒュードアカデミー」を主宰し、塾形式の「BSTセミナー」もスタートさせました。

「日本版6シグマ」を
  指導、支援する上での「3つの心得」

 ジャック・ウエルチは「6シグマは世界中の企業で採用されるようになってきたが、これを理解しないでいる贅沢は許されない。ましてや実践しないなんてとんでもない。こんなにいいものなのにどうしてみんなが不安がったり、混乱したりするのか。それは科学者、統計学者、コンサルタントといった専門家がMITの教授しか喜ばないような複雑なパワーポイントを使ってみんなをパニックに陥らせているからだ」と語っています。
 日本にあってもアメリカから「6シグマ」を成功させるためのノウハウが紹介され、多くの企業で取り組みが行われています。しかし、手法としての曖昧さや複雑さ、難解さに加えて、保守的な組織風土や社員からの抵抗も大きく、頓挫している例も多いように思われます。
 「日本版6シグマ」は「BSTプログラム」という問題解決手法を使って、「経営課題・目標」を組織の力で解決し、実現していくことが基本になっています。問題解決への取り組みのプロセスをステップ化し、ボトルネックになっている工程と課題を絞り込み、最適解決策を一つずつ実行し、成果を確認しながら確実に前に進んでいくやり方をします。
私は「日本版6シグマ」の指導、支援にあっては、次の「3つの心得」を重視しています。
 (1)日本版6シグマコンサルティングの導入を決定して戴いたことに心から敬意
    と感謝の念を持って、要
    望の実現にベストを尽くします。
 (2)日本版6シグマに関わる人々が仕事の遣り甲斐、働き甲斐を実感することが
    できる支援を行います。
 (3)日本版6シグマの実践支援を通して、武器である「BSTプログラム」を絶え
    ず改善していきます。

「日本版6シグマ」で重視する
  日本語力に裏づけされたリーダーシップ力

 「日本版6シグマ」では、「経営課題・目標」を確実に、スピーディに、低コストで解決し、実現することはもちろんです。同時に核となるリーダーを平行して育成します。これら2つが可能であるためには、実践を通して「ノウハウ」を創造し続け、武器としての「BSTプログラム」を絶え間なくバージョンアップしていくことが大切であると考えています。

 ジャック・ウエルチは、6シグマのリーダーシップを「仕事を成し遂げるnergy」、「組織を元気づけるnergize」、「ひるまず厳しく決断するdge」、「実行し、成果を出すxecute」の「4つのE」で紹介しています。「日本版6シグマ」では、これを「ボトルネック工程と課題を絞り込み、最適解決策を設定し、確実に実行し切ることによって、論理的に着実に成果を出す『組織の問題解決力』」と言い換えています。
 
 問題解決の場面では、リーダーは問題を内からだけでなく外から客観視することで、今まで気が付かなかったことに目を開き、新しい課題と解決法を見出し、組織の一人ひとりに行動を起こさせ、成果を出させる能力が問われます。この意味で「何がどうなっている、従って何のために、何をどうするか」について、的確に簡潔に表現できる「要約力」、「構文力」としての「日本語力」に裏づけされたリーダーシップ力が不可欠です。「考える、話す、書くことと行動することは一体であり、問題解決の基本である」と考えるからです。

 しかし現実には、日本企業の日本人社員の「日本語力」の低さからくる「実行力の弱さ」が気になります。「日本版6シグマ」が求めるリーダーシップにあっては、問題解決の場面で「自分の考えを明瞭に、はっきり表現する力」という、本来「句読点をつけて話す、書く」という意味である「Articulacy」という概念を重視している理由が、ここにあるわけです。